刑事弁護フォーラム共催特別ゼミで活動を紹介しました

2024年9月10日に、刑事弁護フォーラム会員向けに特別ゼミを開催し、当会の活動を紹介しました。まず高野隆弁護士(高野隆法律事務所、当会会長)が設立趣旨を説き、次いで小林英晃弁護士(Kollect アーツ法律事務所、当会事務局)が取調べ拒否実践マニュアルの詳しい使い方をお伝えしました。会員から実践例についても報告していただきました。高野隆弁護士と小林英晃弁護士の発言部分をご紹介します。

高野隆: RAISという団体を発足しました。当初のメンバーは17人だったんですが、今は80人ぐらいになっています。多分、明日には100人ぐらいになるはずです。「ライス」といっても、ご飯のことではありません。ライス(RAIS)っていうのは、Right Against Interrogation Society、「取調べ拒否権を実現する会」という団体です。なぜこんな会を立ち上げたのかというと、日本の人質司法というものを根絶するためには、取調べ拒否権を確立する以外にはないからです。
 今までの刑事弁護の目標というか運動は、例えば「取調べを可視化する」つまり、外から見えるようにするというようなことで、取調べを人間化するということ。それから、今日弁連が運動を始めた「取調べに弁護人を立ち会わせる」というようなことも、現に行われている取調べを直接改善するものではないし、身柄拘束の改善にも直接には役に立たない。
 取調べ受忍義務があるということ。逮捕しさえすれば、捜査機関はいくらでも、何回でも、何時間でも、何十時間でも何百時間でも、被疑者を取調べることができる。だから逮捕をする。取調べをしたいから令状を請求する。裁判官はそれを認めて令状を発行する。人質司法という悪弊をなくすためにはこの連鎖を断ち切るしかないのです。
 日本国憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と言っています。これは、もちろん、日本の憲法ですから、日本語で理解するのが正しいと思うんですけれども、しかし、「自己に不利益な供述を強要されない」という表現ですと、自白を強要されない権利が黙秘権だというふうに理解されがちです。しかし、それは間違いです。
 この日本国憲法は、アメリカ合衆国憲法をそのまま日本に移植したわけですね。この、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」っていうのは、合衆国憲法第5修正を直輸入したものです。日本国憲法の英語版は、“No person shall be compelled to testify against himself.”となっています。何人も自分に対立する証人になることを強制されてはならない。つまり、相手方のために供述を提供することを強制されないことが、黙秘権の意味なんですね。尋問を受けることを強要されないということが黙秘権なわけで、それが歴史的に正しい黙秘権の解釈です。
 皆さん、よくご存じのように、1966年にアメリカ合衆国の最高裁判所は、ミランダ判決の中で言っています。捜査官は、身柄拘束された被疑者に対して、供述を得るための取調べをすることができるとしても、その被疑者が沈黙するということを何らかの方法で表明した時には、ただちに取調べは停止されなければならない。それが、第5修正が要求しているところだ。つまり、取調べを拒否できるというのが黙秘権なんだっていうことを、ミランダ判決は言ったわけですね。
 それは1966年なんですけども、実は、それよりもずっと前に、日本の法律は、取調べ拒否権というのを認めています。刑事訴訟法198条1項ただし書きです。被疑者は、出頭を拒み、または出頭後いつでも退去することができる。取調室に留まる義務は全くないんだ、そこから出ていくことができるんだというのが、日本の刑訴法なんですね。刑訴法ができたのが1948年ですから、ミランダ判決よりも18年前に、実は、日本の法律のほうが先に進んでいたと言うことになります。
 問題は、この198条1項ただし書きにさらにただし書きが付いることです。「逮捕又は勾留されている場合を除いては」っていう文言です。これは、逮捕、勾留されている、身柄拘束のための令状が執行されている人は、家に帰ることができない。そのことを明記しようというふうに、GHQの担当官が言ったことがきっかけで制定されたものです。逮捕、勾留されている人には取調べを拒否する権利はないんだっていうことを言うために、付け加えたわけではないんですね。
 ところが、これが一人歩きして、日本のあらゆる警察、あらゆる検察官が、逮捕勾留されていれば、取調べ受忍義務があるんだと。捜査官が「いい」と言うまで、ずっと取調室に留まっていなければならないんだというふうになってしまった。本来、逮捕とか勾留っていうのは、被疑者の逃亡を防ぐためのものだったわけで、取調べとか供述とかとは全く関係ないわけなんですけれども、実際には、取調べを目的とした身柄拘束が、日本では横行するようになった。諸悪の根源は、まさにこの取調べ拒否権がないということです。
 話をちょっと元に戻しますと、今、日弁連がやっている取調べに弁護人の立ち会いを認めるべきだという運動ですけれども、これは、当面実現できない。取調べ受忍義務というものが存在する限り、不可能ですよね。だって、1日5時間とか、下手したら10時間ぐらい取調べを受けるわけで。しかも、それは毎日続くわけで。それに全部立ち会うなんて、あり得ないわけでね。そうすると、取調べ立ち会いというのを実現するためにも、取調べ拒否権というのは、必須なわけです。
 実際のところ、イギリスでもヨーロッパでも、取調べの立ち会いというのをやってますけれども、実際には、30分とか1時間ぐらいの取調べに立ち会うだけです。さらに言うと、そもそも「黙秘」って言ったら、もうその段階で取調べをやめるっていうのは、アメリカだけではなく、ヨーロッパでもそういう運用になっていますし、最近では、韓国でも最高裁の判決で、黙秘権を行使したらもう取調べをやめなきゃいけないと。まさに、ミランダ判決が言ったことをそのまま実現できています。取調べに立ち会うということを、仮に実現するのであれば、それよりも前に、この取調べ拒否権を確立することが必要だっていうことになります。
 そして、取調べ拒否権があるのであれば、立ち会う必要はない。「拒否します」って言えば、それで終わりなので、わざわざ立ち会う必要はない。被疑者の供述が必要であるならば、われわれが被疑者、依頼人から話を聞いて、それを保存しておけばいいという、当事者主義の弁護として極めてノーマルな弁護活動が行われるようになるはずです。ですから、われわれは、立ち会いとか録音・録画とかではなくて、依頼人の取調べを拒否するという運動を、始めることにいたしました。
 実際のところ、取調べの立ち会いはできない。なぜなら、相手のあることだから。取調室の扉を破って入ってったら、それは住居侵入とか器物損壊とか建造物損壊で逮捕されちゃいますけど、取調べ拒否ってのは、簡単にできる。取調室に行かなきゃいい。それだけの話なんで。法律が制定される前に、取調べ拒否というのは実現できてるわけです。実際に、われわれのメンバーは、取調べ拒否ということを実践しているわけです。そして非常に大きな成果を上げることもできています。そのことは、この後の会員の報告で明らかになります。ということで、私の報告は以上です。ありがとうございました。

司会:では、これから、会員の小林英晃弁護士からマニュアルの解説をしていただきます。小林先生、お願いいたします。

小林英晃:RAISの事務局の小林と申します。よろしくお願いいたします。ちょっと私のほうから、このRAISのホームページをご紹介しまして、取調べの拒否をするための実践的なマニュアルを、少し、30分ほど頂いて、ご紹介をさせていただきたいと思います。
 まず、われわれRAISは、ホームページがありまして、R、A、I、Sと。「RAIS、取調べ」というふうに検索していただくと出てくるかと思います。残念ながら、まだRAISだけだと、デンマークのストーブのほうが上にきてしまうので、来週ぐらいには、こちらが上にくるんだろうと思うんですけども。ちょっと、今日の時点では、ちょっとまだ「取調べ」というところも、追加で出していただくと出てくると思います。
 トップページが、今、画面共有をしているところです。ホームページの中にも、高野先生の宣言とか、いろいろ貴重な情報があります。実際の取調べを受けた方のインタビューとかいろいろありますけれども、今日は実践のマニュアルということで、上のほうに、「取調べ拒否権実践マニュアル」というところがあるので、こちらを押していただくと、実践マニュアルのページに飛びます。冒頭に、先ほどおっしゃっていただいたような、高野先生の「はじめに」のお言葉がありまして、その後に、Qを1から9ということで、問いに回答するというような形式で、マニュアルを作っております。ここのあたりを、ちょっとざっとかいつまんでご説明いたします。
 まず、「取調べ拒否とは何ですか」というところ。もう先ほど高野先生からお話しいただきましたけれども、憲法38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」というふうに定めています。これを黙秘権と呼んでいるわけですけれども、まさに取調室に監禁されて、ああだ、こうだといろいろ言われ続けて、ずっとそれを何時間も何時間も耐えなければいけないというような状況は、むしろもう、まさに供述の強要であろうと。黙秘権を実質的に保証するためには、もう「取調べを拒否します」と言ったら、そこでもう取調べが終了するというふうにならなければならないところで、取調べ拒否というところを、こういうふうに取調べ受けない。そもそも受けないということを、取調べ拒否と、われわれは呼んでいます。
 「なぜ取調べを拒否する必要があるのですか」、いうところですけれども、もう皆さんもご承知のことと思います。再審無罪みたいな大きな事件でないにしても、連日長時間の取調べをされて、意に反するような調書を取られてしまった依頼者の人というのは、いっぱいいらっしゃいます。おそらく、ここ、今日ご覧いただいてる方々の中にも、そうした経験がある方がいらっしゃるのではないかなと思います。
 当然、そういった虚偽の自白というか、そういったものが冤罪(えんざい)の温床の一つになっているということも、ご承知だろうと思います。取調べを拒否してしまえば、そもそもそういった供述の強要にさらされることがないわけですから、虚偽自白とか、そういったことがもうなくなっていくというふうに考えられます。なので、そういう意味でも、完全に黙秘権というものが、まさに保証されていくわけですね。取調室でずっと黙ってるというだけではなくて、まさに、取調べを受けないという形で黙秘権の実質化をしていくために、取調べを拒否するという必要があるというふうに考えています。
 「取調べ拒否はどのように有効ですか」というところですけれども、まさにもう取調べを受けないわけですから、当然ですけど、取調べにずっと何時間も耐えるということを、被疑者の方がしなくてよくなります。当然、われわれも接見をした時に、「取調べでどんなことを聞かれましたか」とか、もししゃべってしまったんだったら、「どんなことを言っちゃったんですか」とかですね。そういったところを逐一聞いて、場合によっては抗議をしたりとか、その虚偽の供述のフォローをしたりということを、今はしなければならない場面もあるわけですけれども、そういったことがもうなくなるということになります。もう、純粋に防御のための接見とか、そういったことに集中できる。当然ですけど、立ち会いもする必要もないわけですね。まさに、防御のためにリソースをフルに割くことができるようになります。
 さらに、虚偽の自白も、当然なくなるわけですから。皆さんも、私もそうですけど、ちょっとこう、変な乙号証が取られていて、後々公判の最後の最後までそれが足を引っ張るみたいなことも、もうなくなっていくんじゃないかなと思ってます。
 「取調べを拒否することで不利益がありますか」という質問も作っております。ご承知のとおり、もう黙秘権というのは、憲法上の権利ですから、黙秘をした、取調べを拒否したということで、不利益な取り扱いをされることは、本来、許されないわけです。ただ、現実はなかなかそういうふうにはなっていない。特に、在宅の事件のほうについては、その取調べ拒否すると、出頭しないということによって、逮捕、拘留されてしまうんではないかというところのリスクというか、そこを危惧することも、ままあると思います。
 ただ、実際には、こういったリスクというのを、そこまで過大評価するべきではないというふうに思います。例えば、重大な犯罪ということであれば、取調べを拒否してもしなくても、しゃべってもしゃべらなくても、多くの場合、逮捕・勾留されてしまうわけですね。実際は罪証隠滅とか逃亡の恐れもないような人でも、やっぱり被疑事実が重いと、拘束が続いてしまうということもままあります。実際の経験事例、RAISの会員の経験事例として、もう何カ月も何カ月も在宅捜査が続いていて、呼ばれるたびに出頭して供述をしていたというようなケースでも、最終的に、それでも逮捕されてしまったという例があるようです。
 ですので、取調べを拒否したから、じゃあ逮捕されてしまうのかというと、必ずしもそうではない。そうではないというか、逮捕されてしまう件は、拒否をしてもしなくても、結局逮捕されてしまうということなので、そういった意味で、あまりリスクというものを、必ずしも危惧しなくても、過度に恐れなくてもいいのではないか。逆に、軽い罪、被疑事実であれば、拒否しても、罪証隠滅とか逃亡の恐れもないということで、そもそも逮捕されなくなるということもあるだろうと思います。なので、在宅の場合に取調べ拒否したら、逮捕されてしまうんじゃないかというリスクについて、あまり過大評価してはいけないというふうに思います。依頼者の方にも、そういったところを説明して、理解をしてもらって、取調べ拒否が最善だということを理解してもらうということが、重要だろうと思います。
 あと、逮捕のリスク以外にも、何か重要な、有利な情報提供する機会がなくなってしまうのではないかということも、当然ですけれども、恐れる必要はありません。何か、捜査機関に情報提供する必要があれば、弁護人から直接すればいい。何も、取調べの場を設定して、そこでご本人に話してもらうとか、そういうふうにする必要は、全くないということです。なので、取調べ拒否ということで、今、多分、多くの方はまだそこまでやってらっしゃる方がいらっしゃらないのかもしれませんけれども、あまりそこの不利益というものを、恐れる必要がないというふうに考えています。
 「逮捕・勾留されている人が取調べを拒否するにはどうすればよいですか」というところで、このマニュアルの真価が発揮される場面の一つなんですけども。まず、通告書というものの書式をアップしています。ここのQ5のところを開いていただくと、PDFのリンクがあります。このサイトの一番下にも、書式集ということで、Googleドキュメントで書式をまとめています。ここにも載っていますけれども、「取調べを拒否します」という通告書というものを作っています。
 ちょっとご覧いただきますと、こんな感じですね。これは、検察官に宛てて送る用の通告書です。この、殺人被疑事件でどこどこに勾留中の誰々さんの弁護人です、と。「検察官の取調べを受けることを拒否します」というふうに書いてあります。「この通告を無視して取調べを強行することは、黙秘権侵害に他ならず、違憲・違法な措置です」と。もう「検察庁に呼び出さないでください」と。取調べしないでくださいというふうに書いてあります。ここにアップしてます通告書は、皆さんのほうでも、実際の場面で、このまま使っていただいても構いません。事案に応じて、多少文章を加筆していただいたりとか、変えたりしていただいても、そういった工夫をしていただいても、もちろん構いません。
 この通告書が、弁護人から出す通告書が3種類用意しています。検察官宛て、警察官宛て、あと、留置宛てというものがあります。検察官、警察官は、まさに取調べをしようとする人たちに送るということですけれども、留置に宛てた通告書というのもあります。基本的には、留置、ご承知のとおり、留置施設に拘束されていて、取調べだという時には、留置の人に呼ばれて連れ出されて、取調室に引渡されていくということになるので。留置の人にも、そもそも、被疑者の人を外に出さないでくださいという申し入れ、通告をしておくということも、重要だろうと思います。特に、実際、房から出ませんと、取調べを受けませんっていうふうにすると、留置の人との関係性が悪くなっちゃうんじゃないかなということを気にする方もおられますので、そこはしっかりと、弁護士からも留置の人に通告して、大丈夫ですよというふうにケアをしておいてあげるということが、大事だろうなと思います。
 そして、本人用の通告書というものもご用意しています。これも非常にシンプルなものですけれども、「私は黙秘権を行使しますので、取調べをしないでください」、という通告書ですね。弁護人が言ってるだけではなくて、ご本人としても取調べを拒否するという意向を明確に示してもらうというために、こういったものを作っています。この書式をそのままご利用いただいてもいいんですけれども、工夫次第で、紙、便箋を差し入れて、短い文面ですので、ご本人にも直筆で書いていただいて、それを利用するということも考えられるかなと思います。こういった通告書を提出した上で、逮捕、勾留されている人に、取調べを拒否してくださいというふうに、アドバイスをしていくわけです。
 今度、「逮捕・勾留されていない人が取調べを拒否するにはどうすればよいですか」、というところですが、これも基本的には一緒です。弁護人として付いて、検察官、警察官に、これも通告書を出します。こちらも書式を載せておりますので、ご利用ください。本人からも通告書を書いていただいて、これを出すと。そして、もう取調べは拒否しますのでと、行きませんと。取調べには出頭しませんというような対応をするということも考えられます。
 時々、ご相談に来た時に、「既にもう警察に行く約束をしちゃっています」とかですね。私も、「今日この後呼ばれて行くんですけど、一緒に来てください」って言われたことがあるんですけど。1回その、例えば、どうしても一緒に警察署に同行して行かざるを得ないという場合でも、同様に、同行してこの通告書を出すと。出頭した際には、弁護人のほうから、もう「黙秘権を行使します。取調べは拒否しますので、もう呼ばないでください」と言って、もうそのまま帰ってくるというふうな対応をするという形になります。
 「依頼者には、具体的にどのように助言をすればいいですか」というところ、一番、もしかしたら関心のあるところかもしれません。依頼者の方に、やっぱり、取調べ拒否が最善だということを、まず理解していただく。そして、それが、ちゃんと権利として保証されているんだと。特に、警察官は、取調べ受忍義務があるとか言ってきますけれども、そんなことはないんだというふうに、そこをまず理解してもらうということが大事だと思います。
 具体的な実践方法ですけれども、これは非常に単純で、もう房から「立ち上がるな」と言えばいい。今まで黙秘をしてきておられた方、弁護人としてアドバイスしてこられた方もいらっしゃると思います。黙秘のアドバイスは、しゃべるなと。ペンを持つなと。「しゃべるな、書くな」っていうあれだったと思うんですけど、そこの1個手前として、もう「立ち上がるな」というアドバイスをする。黙秘より簡単ですよね。「立ち上がるな」ということを理解してもらえばいいだけなんですね。
 時には、そういうふうに、立ち上がらないように頑張ってもらっても、時々、留置の人とかが、房から連れていこうとするという場面があります。実際の例とかでいうと、担架とか車椅子に乗せられて、連れていかれたという例があるみたいです。あと、特に弁解録取の手続きは、結構、検察官がわざわざ警察署に来て、取調室まで車椅子とかで運んで、そこで一応弁解録取をやるというようなケースがあるようです。このように、ちょっと、まだ強制的に連れ出されるというケースも、ないわけではないので、そうした時には、変に抵抗してはいけないんですよと。公務執行妨害になっちゃうと困るので、そこは、物理的に何か抵抗したりとかいうことはしてはいけませんということも、併せてアドバイスをすると。
 その上で、取調室に連れていかれてしまった時には、もう完全に黙秘する。最初、「私は黙秘権を行使するので、取調べを拒否します。取調べをやめてください」と、1回言って、あとは、もうずっと黙っていくというアドバイスを、一応していただくということになるかなと思います。当然ですけれども、そうやって連れ出されてしまったということを、後でご本人から聞いたら、弁護人から抗議をするという形になりますね。
 「申し入れに反して取調べがされたらどうすればよいですか」というところで、抗議をするという形ですね。抗議書の文案も、そのマニュアルに、中に載せています。こちらも、この事案によって、この加筆をしていただいたりしてもちろん構いません。特に、警察官なら警察官の誰々が、いついつの取調べでこんなことをした、とかいうところを具体的に書いていただくというのは、従来の抗議と同じかと思います。
 検察官が勾留の延長を請求した場合の対応というのもあります。ご承知のとおり、勾留の延長の理由として、被疑者取調べ未了というふうなハンコが、押されることがあります。これを許してはいけないわけですね。まさに、取調べをするために勾留を継続する、延長するということについて、まさに裁判官がお墨付きを与えてしまっているという実情だろうと思います。しっかりと、この延長請求に対しては、先ほどお示しした通告書ですね。取調べはもう一切拒否しますという、弁護人と被疑者の方ご本人の通告書を、資料として付けて、取調べのための延長は許されないんだということを、しっかりと裁判官にも分からせていくということが必要だと思います。
 実際、会員の方で、実践をしていただいて、勾留延長の、準抗告でしたかね。準抗告自体は蹴られてしまったんですけれども、取調べ拒否している現状において、そういった被疑者取調べは延長理由になることには疑問があるというようなことを、決定に書いてもらったことがあるというふうな、会員の方のご報告もありますので。こういった地道な活動を、一緒に続けていっていただけたらなと思います。
 以上、ざっとかいつまんでご説明をしましたけれども。これから、皆さんにも、取調べの拒否というところを、ぜひ実践していただいて、広めていっていただきたいと思います。今、見ていただいてもお分かりのとおり、高野先生のような、特別な知識とか技術とか経験とかがなくても、この取調べ拒否というのはできます。われわれ若手の弁護士でも、全然、「立ち上がるな」という一言を言えばいいわけなので、もう、すぐ明日からでもできるということになってます。これから、こういった取調べ拒否が、実務のスタンダードになるという社会をつくるために、ぜひ、一緒に取調べの拒否をして、新しいあるべき捜査の実務をつくっていっていただけたらなと思います。ざっとお話をしましたが、以上です。ありがとうございました。

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