取調べをめぐる国内外の状況

海外の状況

警察庁

捜査手法、 取調べの高度化を図るための研究会第9回

英国(イングランド及びウェールズ)における捜査手法、刑事司法

英国

イングランド及びウェールズ人口
約5,445万人
警察
地方自治体単位で組織される43の警察機関
警察官
約14万1,859人

その他、重大組織犯罪対策庁などの捜査機関あり (数値は2008年のもの)
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英国刑事司法の特色 (※数値は特記無ければ2008年のもの)

犯罪発生率
認知件数: 470万2,500件 (日本の2.5倍)
人口10万人あたり8,636件 (日本の6倍)
捜査手法
通信傍受令状発付: 1,514件 (2009年) (日本は22件 (2008年))
会話傍受等の承認: 384件 (2009年度) (日本はなし)
DNAデータベース登録件数 (遺留DNA除く): 561万7,604件 (2009年3月末) (日本は10万7,584件 / 遺留DNA除く2010年9月30日現在)
逮捕
逮捕人員: 145万8,347人 (日本は9万8,945人)
人口10万人あたり: 2,678人 (日本は77人) (日本は一般刑法犯の数値)
一般的に無令状逮捕が可能 (※ 警察及び刑事証拠法 (PACE) 第24条)
取調べの比重が低い
逮捕から起訴までの拘束可能時間は24時間
逮捕後の取調べ 1~2回
逮捕後の取調べ時間30分以内
取調べの可視化
警察署における被疑者取調べの録音が義務化 (※ PACE 実務規範E3.1)
弁護人が取調べに立会い可能 (※PACE第58条、 実務規範 C6.8)
告発
起訴 (告発) 率 約52% (日本は約44%)
  • 起訴判断は、有罪の現実的期待を生じさせる十分な証拠の有無と公益性 (完全テスト)
  • 証拠不十分でも、嫌疑の合理性と証拠獲得による有罪見込を検討 (予備テスト) (※ 検察官準則)
有罪答弁制度
有罪答弁を行った者は、その意向が示された段階と状況で量刑を考慮 (※刑事司法法第144条)
有罪答弁で量刑は最大で3分の1軽減 (※ 有罪答弁に関する量刑の減刑ガイダンス)
有罪答弁の場合は、証拠調べは行われず刑手続きに入る
有罪答弁率 約7割 (治安判事裁判所法9条3項)
証言を得るための制度・司法取引
  • 大組織犯罪及び警察法第73条
  • 開示通告 (刑事免責による証言強制) (※大組織犯罪及び警察法第62条~67条)
  • 証人保護
    • 証人保護情報開示の犯罪化
    • 証人の匿名性に関する命令など
無罪率
約20% (日本は0.2%)
無罪答弁をした者の無罪率 約64%

警察の刑事司法に関する権限

  • 地方警察の長である警察本部長が、各警察組織の運営と実際の治安維持活動について全責任を負う
  • 警察権限は、コモンロー上の権限行使として認められていた
  • 刑事司法制度改革の一環として、「1984年警察及び刑事証拠法 (Police and Criminal Evidence Act / PACE)」 が制定され、その後は議会制定法によって、警察官の権限の大部分が規定
    • 警察及び刑事証拠法: 職務質問、逮捕・捜索、勾留等
    • 捜査権限規制法 (Regulation of Investigatory Powers Act): 傍受、監視等
    • その他、刑事司法及び公共秩序法、テロリズム法等
  • 検察庁 (Crown Prosecution Service)
    • 1985年犯罪訴追法で創設
    • 2003年刑事司法法により、警察が軽微事件について引き続き告発の判断を行う一方で、検察が軽微事件以外で告発の是非を判断することとなった

取調べ

取調べとは
  • 犯罪行為への関与またはその疑いに関して人に質問することであり、規定に基づいて黙秘に関する警告を与えなければならない (警察及び刑事証拠法 (PACE) 実務規範C11.1A)
  • 取調べの手続は、 PACE実務規範Cが詳細に規定
取調べに関する主要な規定
  • 逮捕被疑者については警察署等において取調べ (PACE実務規範C111)
  • 適宜の休息や、食事が必要。留置管理官の許可が必要 (PACE実務規範 C122、C12.8)
  • 警察署の中で調べたか外で調べたかにかかわらず、取調べ毎に正確な (逐語の) 記録が必要 (録音があれば不要) (PACE実務規範 C117, Notes for guidance 12A)
  • 警察署における被疑者の取調べは「録音」が義務的 (PACE 実務規範 E31)
  • 弁護士の取調べへの立会要請が可能 (PACE実務規範C6.8)
  • 黙秘からの不利益推定有り (刑事司法及び公共秩序法第34条、第36条、第37条)
  • 捜査官が関係情報を得るための質問をすべて行い被疑者の弁解も聴取したと考えられる時点、有罪の見込みに十分な証拠が得られたと思料される時点で、取調べを終了しなければならない (PACE実務規範 C11.6)
  • 告発後の当該犯罪の取調べは、例外的 (PACE実務規範 C165)

取調べの実態

  • 英内務省の調査研究報告
    • 「POLICE INTERROGATION」 Home Office Research Study No.61 (1980年報告)
    • 「THE TAPE-RECORDING OF POLICE INTERVIEWS WITH SUSPECTS」 Home Office Research Study No.82 (1984年報告)
    • 「THE TAPE-RECORDING OF POLICE INTERVIEWS WITH SUSPECTS A SECOND INTERIM REPORT」 Home Office Research Study No.97 (1988年報告)
取調べの回数

取調べの録音(録画)

取調べの録音録画の法制
  • 1984年警察及び刑事証拠法 (Police and Criminal Evidence Act / PACE) が、録音録画を行うための規則 (実務規範) を策定することを規定 (同法第60条)
  • 同法の実務規範 (Code of Practice) Eが録音、Fが録画の詳細を規定
  • 録音録画がなされなかった (なされた) 供述について、その証拠能力に関する特別な規定はない
取調べの録音録画の対象
  • 録音は「警察署で実施される、正式起訴可能犯罪 (両性犯罪含む)に関して、実務規範C第10条により警告が行われた、被疑者の取調べ」について義務化 (PACE実務規範E3.1)
  • 録画は必要に応じて実施されるが、聴覚障害者や未成年の被疑者では実施が推奨される (PACE実務規範F3.1)
  • 録音が義務づけられている取調べは、すべての過程を録音しなければならない (PACE実務規範E3.5)
取調べの録音録画の例外
  • 道路交通法 (Road Traffic Act) 事件、運送作業法 (Transport and Works Act) 事件は、実務規範C (取調べ) の規定対象外
  • テロ事件は実務規範E、Fとは別に規定 (PACE実務規範C11.1A、 実務規範E3.2)
  • 機器の故障、設備のある取調室の手配ができない場合、状況から訴追しないことが明らかな場合は、留置管理官の承認の下で書面による記録に代えることが可能 (PACE実務規範E3.3)
  • 被疑者が録音を拒否した場合は、その理由を聴取・録音した後に機械を停止することもできる (PACE実務規範E4.8)
  • 被疑者が事件と関係のないことについて、録音なしで捜査官に話すことを望んだ場合には、正式な取調べの後で機会が与えられる (PACE実務規範E4.10)
取調べ室
  • 被疑者用取調室は警察署留置場内
  • マイク・録音デッキ

取調べの録音録画と自白率

取調べにおける証拠獲得率 (自白率) 1980年1984年報告
取調べにおける証拠獲得率 (自白率) 1988年報告

取調べに関する争点

取調べに関する争点1988年報告

取調べの技術とその伝承方法

国家取調べ戦略 (National Investigative Interviewing Strategy)
  • 警察業務改善庁が策定、取調べの原則やPEACEモデルに言及
PEACEモデル
  • 取調べを5つの局面に分ける
    • P: Planning (計画) と Preparation (準備)
    • E: Engage (引き入れ) と Explain (教示)
    • A: Account (説明)
    • C: Closure (締め括り)
    • E: Evaluation (評価)
国家職業基準 (National Occupational Standard, NOS)
  • 取調べをいくつかの要素に分けて、それぞれに達成基準と達成に必要な知識を揚げている
    これらに基づき、警察業務改善庁が、様々な研修・成果物を各警察に提供

裁判官による事実認定の状況

認定すべき事実と証拠
  • 被告人の有罪を認定するために、例外的な場合を除いて、検察側が証明
    証明すべき事実は「被告人の特定性」「犯罪行為」「心理状態」
  • 挙証責任は原則として検察側が負うが、コモンローや成文法による挙証責任の分配、転換が認められる (Black Stones Police Manual 2010 Volume 2, Evidence & Procedure)
取調べの録音・録画の基準
  • 事件が原訴法廷または区域法院で審理されるとみられる場合。 
  • 裁判法院で審理されるとみられる事件のうち、「複雑なもの」、「録音録画が公共の利益に資する場合」、「被疑者が要望した場合」。
  • 律政司から録音録画を行うように助言がある場合。
以上のうち一つ以上を満たす場合の被疑者の取調べについて行われる。
    ※ ただし、録音録画を行うか否かの決定権は警察にあり、捜査の責任を有する幹部職員が判断して録音録画しないこともありうる。
有罪答弁
  • 被告人が有罪答弁を行った場合には、基本的には証拠調べは行われず、量刑手続きに入る (罪体立証手続と量刑手続が分離) (治安判事裁判所法 (Magistrates’ Courts Act) 第9条第3項)

自白の証拠能力

自白の証拠能力
  • いかなる手続においても、被告人に不利益な証拠とできる
  • 強圧や自白の信用性を失わせると認められる言動の結果獲得された自白は排除される
  • 訴追側は、自白を証拠提出するときは、自白がこれらの方法により獲得されたものでないことを証明しなければならない
  • 自白に補強証拠を必要とする明文の規定はない。ただし、完全にあるいは大部分を自白に基づいて被告人を有罪にする場合に、被告人が知的障害者であって立会人なしで自白されている場合には、裁判所は特別な注意を払わなければならない (PACE 第76条第1項、第2項、第77条)

黙秘の不利益推定 (概要)

  • 告発前の警察官の取調べで、公判で抗弁として主張している事実について供述しなかった場合
  • 告発された時等に、その時点で供述を合理的に期待することができた事実を供述しなかったとの証拠が提出された場合
  • 逮捕被疑者の身体等に痕跡等があり、その痕跡等について捜査官が黙秘権等に関し特に警告を行って説明を求めても応答しない場合
  • 逮捕被疑者が犯罪場所において発見された場合に、その場所にいたことについて、捜査官が黙秘権等に関し特に警告を行って説明を求めても応答しない場合
  • 裁判所又は陪審は黙秘から適当と認める推論を行うことができる (1994年刑事司法及び公共秩序法 (Criminal Justice and Public Order Act) 第34条、第36条、第37条)

誤判の状況

誤判の状況

取調べ以外の捜査手法等

有罪答弁を行った者の量刑
  • その意向が示された段階と状況を考慮 (2003年刑事司法法 (Criminal Justice Act) 第144条)
  • 最初の機会に有罪答弁を行うと3分の1、審理日程が決まった後に有罪答弁をすると4分の1、審理が始まった後は10分の1、と有罪答弁による量刑の軽減基準がガイドラインで規定 (“Reduction in Sentence for a Guilty Plea” Definitive Guideline)
司法取引
  • 有罪答弁をした被告人が、指定検察官との間で、書面により、捜査支援することで合意した場合には、裁判所は量刑を考慮する旨が法律で規定 (2005年重大組織犯罪及び警察法 (Serious Organized Crime and Police Act) 第73条)
刑事免責 (開示通告)
  • 特定の犯罪では、質問への回答、情報提供、文書提出などを罰則をもって強制できる
  • この通知に基づいて得られた供述は、供述者に対する刑事手続の証拠としては使用できない (重大組織犯罪及び警察法第62条~第67条)
通信傍受
  • 2000年捜査権限規制法 (Regulation of Investigatory Powers Act / RIPA) で規定
    • 「重大犯罪の予防と捜査」「国家安全に関する事項」「英国の経済的利益の保護」のために、通信を傍受できる
    • 要件は「必要性」と「比例原則」
    • 令状発付権者は内務大臣
    • 令状は3ヶ月有効だが、申請で延長可能
    • 対象者への通知は不要
    • 傍受の運用状況を監督する通信傍
受監督官が首相により任命
令状発付件数: 1,514件 (2009年) (1件の令状で複数通信手段を指定可能)
秘匿監視 (会話傍受等)
  • 2000年捜査権限規制法 (Regulation of Investigatory Powers Act / RIPA) で規定
    • 重大犯罪の予防と捜査」「国家安全に関する事項」「英国の経済的利益の保護」のために、個人の居宅内や車両内に入り、監視機器を設置できる
    • 要件は「必要性」と「比例原則」
    • 許可権者は内務大臣等
    • 許可は3ヶ月有効だが、申請で延長可能
    • 承認件数: 359件 (2009年)
秘匿人的情報源・潜入捜査
  • 2000年捜査権限規制法 (Regulation of Investigatory Powers Act / RIPA) で規定
    • 秘匿目的で関係者と関係を構築し、その関係を利用して情報を入手する「秘匿人的情報源 (Covert Human Intelligence Sources / CHIS) 」 の活用が認められているが、潜入捜査官と一般の協力者の区別は規定上ない
    • 国務大臣の命令により指定された公的機関幹部による許可で活用可能
    • 許可の有効期間は12ヶ月
    • 許可において特定されている行為は、許可中に特定されている者に関して行われ、また、許可中に特定されている捜査等を目的として行われる場合には、許可される
    • 2010年3月末時点有効承認件数: 3,767件
DNAデータベース
  • DNAサンプルの採取、データベース化の根拠はPACE第63条、第63条A
    • 「犯歴登録犯罪の逮捕被疑者」
    • 「犯歴登録犯罪で有罪判決を受けた者」については同意不要でサンプルの採取が可能
登録件数 (2009年3月末)
  • 対象者 DNA: 561万7,604件
  • 遺留DNA: 35万0,033件
2008年度合致件数
  • 対象者DNAと遺留DNA: 4万0,687件
  • 遺留DNA同士: 4,139件 (以上、スコットランド等含む)

その他調査中の捜査手法・犯罪予防の枠組み

  • ナンバープレート自動読み取りシステム (ANPR: Automatic Number Plate Recognition) というシステムが存在
  • CCTVカメラ: データ保護法 (Data Protection Act) やCCTV運用規則の下で捜査に活用
  • 暴力犯・性犯罪者登録システム: 40数項目の情報を登録するVISORというシステムを活用
  • 多機関連携公衆保護協議制度 (MAPPA: Multi Agency Public Protection Arrangement): 性犯罪前歴者等、公衆に危害を加えるおそれのある前歴者を、関係機関リスク分析、リスク管理を行う制度
  • 2009年3月末で登録者: 4万4,761人
  • 証人保護: 証人等に対する脅迫行為の処罰、ビデオリンク、秘密審理、証人保護関連情報を開示する行為の犯罪化、証人の匿名性に関する命令などの各制度など

英国追加報告 ~ PACE制定の経緯

複雑かつ曖昧な刑事法の改革
  • コンフェイト事件 (1972年)
  • フィッシャー・レポート (1977年)
  • 1978年・刑事手続に関する王立委員会
  • 1981年 報告書
  • 1984年 警察及び刑事証拠法 (PACE) の制定
刑事手続に関する王立委員会
委員会設立の基本認識 (キャラハン首相の表明)
  • 近年、被疑者のための手続保障の改善を目的として、数多くの改革案が提示されてきた
  • 一方で、刑事手続上の制約が、犯罪と闘い犯罪者を訴追・処罰するという警察の職務を不当に困難にしているという非難も強くなってきている
  • 社会全体の利益と、個人の権利・自由との間に権衡が保たれるよう調整がなされる必要があり、捜査から公判に至る刑事手続の全体を再吟味する
委員会の任務 (女王勅命)
犯罪者の処罰に関する社会の利益と被疑者の権利・自由の双方を尊重し、併せて資源の効率的かつ経済的な利用にも配慮しつつ、イングランドおよびウェールズにおいて、以下の各事項について改正が必要かどうかを検討すること
  • 犯罪捜査に関する警察の権限 竟務、および、被疑者の権利・義務
  • 犯罪訴追の手続およびその責任の所在
  • 上の二点に関連する刑事手続の他の局面および証拠法上の問題ならびに、勧告をおこなうこと
王立委員会報告書の構成 (主報告)
  • 第1章 課題
第1部 犯罪の捜査
  • 第2章 王立委員会の一般的アプローチ
  • 第3章 捜査機関の権限と市民の権利
  • 第4章 取調べと被疑者の権利
  • 第5章 第1部の要約と結論
第2部 犯罪者の訴追
  • 第6章 現行の法制
  • 第7章 王立委員会の提案する訴追制度結論
  • 第8章 起訴から公判までの手続
  • 第9章 第2部の要約と結論
結論
  • 第10章 王立委員会の提案と将来の展望
第3章の構成
捜査機関の権限と市民の権利
  • 停止と所持品検査
  • 自動車の停止および検査
  • 家宅への立入、捜索、押収
  • 秘密裏の監視
  • 逮捕
  • 逮捕後の留置
  • 逮捕に伴う捜索
  • 身柄拘束中のその他の手続 (指紋採取、写真撮影、 同一性確認)
第4章の構成
取調べと被疑者の権利
  • 問題の設定
  • 記録の正確性 (逐語の調書・読み聞かせの実施・取調べの録音等)
  • 黙秘権
  • 被疑者の権利の担保
  • 被疑者の取扱いに関する規制の実施

捜査手法、 取調べの高度化を図るための研究会第10回

アメリカ合衆国における捜査手法、 刑事司法制度等の概要

アメリカ合衆国

法域
アメリカ合衆国
人口
約3億914万人(2010年4月現在)
法執行機関数
連邦
38機関
州、市、郡等
約1万4千機関
法執行機関職員数
連邦(FBI)
約3万4千人
州、市、郡等
約102万4千人

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米国の法域、法源

法域
  • アメリカ合衆国の形成の際、刑事管轄権は各州に留保。殺人や窃盗等の伝統的な犯罪類型については、原則として州法等で規定し、州等が捜査
  • 連邦政府にも、一定の行為を犯罪と規定し、これを処罰する権限
法源
  • 実定法には連邦法と州法があり、連邦法は州法に優越(合衆国憲法第6条)
  • 実定法に次ぐ法源として、コモン・ローが存在
  • 裁判所は、同等又は上位の裁判所が下した法解釈に拘束される(先例拘束性)

米国刑事司法の特色

犯罪発生率
  • 犯罪の発生認知件数(暴力犯罪及び財産犯罪 計8罪種): 1,114万9,927件(日本の6.1倍)
  • 人口10万人あたり3,577件(日本の2.5倍) ※日本は刑法犯の数値
捜査手法
  • 通信傍受(会話傍受も含む) 許可件数: 2,376件(2009年)(日本は22件、会話傍受なし) 計8罪種): 1,114万9,927件(日本の6.1倍)
  • DNAデータベース登録件数(遺留DNA除く): 833万2,712件(2010年5月) (日本は10万7,584件/遺留DNA除く2010年9月30日現在)
逮捕
  • 逮捕人員(暴力犯罪及び財産犯罪 計8罪種): 228万2,256人(日本は9万8,945人)              人口10万人あたり732人(日本は77人) ※日本は一般刑法犯の数値
  • 逮捕の95%は無令状によるもの
逮捕から不必要な遅滞なく(連邦においては原則6時間以内)裁判所へ引致しなければ、原則として供述の証拠能力は否定される ※合衆国法典第18編第3501条
取調べの可視化
  • 連邦においては導入されていない
  • 各州においては、判例により4州、実定法により14州(特別区も含む)で導入
  • 弁護人の立会いを求める権利 ※Miranda v. Arizona, 384 U.S. 436 (1966)
起訴
起訴率約58.2%(日本は約44%)
起訴有罪答弁制度(検察、大陪審)
  • 罪状認否手続き、公訴棄却等有罪答弁、不抗争答弁制度   
  • 有罪又は不抗争の答弁を行った場合、検察官は他の訴追をしない 
    • 連邦刑事手続規則第11条 (c)(1) 
  • 有罪又は不抗争の答弁を行った場合、公判は行われず量刑手続に入る
    • 連邦刑事手続規則第11条(b)(1)
  • 有罪又は不抗争答弁率: 約86.4%(有罪+不抗争答弁人員/有罪+無罪+公訴棄却等人員) ※連邦犯罪(2007年)
大陪審による証人への出頭、証言、資料提出の強制
  • 連邦刑事手続規則第17条(a)(c)
  • 刑事免責による証言強制
    • 合衆国法典第18編第6001条~6003条
  • 証人保護制度
    • 合衆国法典第18編第3521条 
無罪率
  • 約10.3%(日本は0.2%)
  • 無罪答弁をした者の無罪率: 約15.1%(無罪人員/無罪答弁人員) ※連邦犯罪(2007年)

取調べの役割・比重

取調べに関する主要な判例等
  • いわゆるミランダ判決において、実質的にその自由を奪われた状態で捜査機関による取調べが実施される場合には、被疑者に対し、取調べに先立ち、①黙秘する権利があること、②供述は法廷において不利に扱われる場合があること、③弁護人の立会いを要求する権利があること、 ④請求により取調べに入る前に公の費用で弁護人を付してもらうことができることを告知する義務を判示(Miranda v. Arizona, 384 U.S 436 (1966))、⑤取調べをいつでも打ち切ることのできる権利があることを加えた5つの項目を告知
  • 被疑者がミランダ権利の告知内容を理解し、自覚的かつ理知的に放棄しなければ、供述に証拠能力はない(Miranda v. Arizona 384 US 436 (1966))
  • 被疑者が黙秘権を行使した場合、それ以後の取調べはできない。また、被疑者が弁護士との相談を要請した場合、それが可能となるまで取調べはできない(Edwards v. Arizona 451 U.S 477 (1981))
取調べの頻度・時間
  • 被疑者が取調べを拒否することにより、20%程度のケースにおいて、取調べそのものが行われない(Richard A. Leo, Miranda’s Revenge: Police Interrogation as a Confidence Game)
  • 取調べ全体を録画している法執行機関に関する調査では、取調べ全体の録画時間の平均は2~4時間(Videotaping Interrogation and Confessions, US Department of Justice (1993))

取調べの録音・録画

取調べの録音・録画の導入状況 
  • 連邦においては導入されていない
  • 各州においては、大きく分けて判例により4州又は実定法により14州(特別区を含む)で導入(2010年10月現在)
  • 議会に法案が提出されたが廃案となった州は18州
    • 判例、アラスカ州 ミネソタ州 マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州
    • 実定法、テキサス州、コロンビア特別区、イリノイ州 メイン州、ニュージャージー州 ウィスコンシン州 ニューメキシコ州 ノースカロライナ州 ネブラスカ州 メリーランド州 ミズーリ州 、モンタナ州、インディアナ州(2011年1月施行)オレゴン州(2010年7月と2011年7月の段階的行)
録音・録画の対象 
  • いずれの州においても、身柄拘束下の取調べ(custodial interrogation)
  • 対象犯罪は、各州様々
    • 特に限定なし(テキサス州)
    • 重罪(モンタナ州、ニューメキシコ州 ウィスコンシン州)
    • 殺人、強姦等の重大犯罪(コロンビア特別区、メイン州、メリーランド州、ミズーリ州、ネブラスカ州、ニュージャージー州)
    • 殺人及び飲酒運転による死亡事件のみ(イリノイ州)
    • 殺人のみ(ノースカロライナ州)
取調べの録音・録画実施の例外 
  • 被疑者の同意が得られない場合(コロンビア特別区、イリノイ州等)
  • 録音・録画の実施が不可能又は困難であった場合(機器の故障、施設内に機器が設備されていなかった場合等)(コロンビア特別区、イリノイ州等)
  • 取調べ官の質問に対する回答でなく、被疑者が自発的に供述を開始した場合(即座に機器を作動させることは困難であるため)(イリノイ州 ミズーリ州等)
  • 逮捕後の定型的質問(氏名、住居等)に対して供述が行われた場合(イリノイ州、ミズーリ州等)
  • 録音・録画の対象となる犯罪の嫌疑が当時存在しなかった場合(イリノイ州 ネブラスカ州等) 
  • 州外で取調べが行われた場合(イリノイ州 ミズーリ州等)
取調べの録音・録画実施しなかった場合の効果
  • 実施しなかった場合の効果は様々
    • 訴追側の反証により供述の任意性と信用性が認められれば供述は排除されない(テキサス州、コロンビア特別区、イリノイ州)
    • 裁判所が当該供述の許容性(任意性・信用性)を判断する際に、これを減殺させる要因として考慮(ニュージャージー州、ノースカロライナ州 ウィスコンシン州)
    • 陪審に対して供述を評価する際に考慮しなければならない旨の警告的説示(モンタナ州、ネブラスカ州、ニュージャージー州 ノースカロライナ州 ウィスコンシン州) 
    • 録音・録画の欠缺を理由として証拠能力を否定してはならない(ミズーリ州、ニューメキシコ州)
    • 実施しなかった場合の効果に関する規定なし(メイン州 メリーランド州)
取調べの録音・録画統一州法委員全国会議によるモデル法案
  • 対象犯罪の設定は各州に委ねる 
  • 対象範囲は、留置施設内で行われる取調べの全過程
  • 例外規定は、「取調べの相手方が拒否した場合」、「電子的記録を行うことで、匿名の情報提供者の身元が暴露されたり、法執行官、被疑者又は第三者の安全を脅かされると、法執行官又はその上司が合理的に判断した場合」、「電子的記録装置が故障した場合」等 
  • 規定に違反した場合、裁判所は電子的記録の不履行を当該供述の任意性又は信用性を判断する際に考慮するものとし、被告人からの申立てがあれば、裁判所は陪審に対して説示を行う(UNIFORM ELECTRONIC RECORDATION OF CUSTODIAL INTERROGATIONS ACT」統一州法委員全国会議 2010年7月起草)
取調べ室
  • ワシントンD.C. 首都警察の取調室の状況 
  • 録音・録画の状況を隣の部屋でモニタリング可能

取調べの技術とその伝承方法

取調べの技術
  • FBIにおける取調べ技術
    任意の被疑者に対する事前取調べを「準備」等の8段階に分け、身柄を拘束した被疑者に対する取調べを「追及」等の4段階に分けて行う
  • 国土安全保障省連邦法執行訓練センターにおける取調べ技術
    事前準備として取調べを行う前に「取調べの目標」等の7項目の確認を行い、取調べを「導入」等の5段階に分けて行う
取調べの訓練
  • FBI、国土安全保障省連邦法執行訓練センターにおいて、上記取調べ技術等に関する訓練を行っている

裁判における事実認定の状況(黙秘権の有り様を含む)

陪審制
  • 憲法上、すべての国民に陪審裁判を受ける権利を保障
    すべての刑事上の訴追において、被疑者・被告人は、犯罪が行われた州及び予め法律で定められる地区の公平な陪審によって行われる迅速な公開裁(合衆国憲法修正第6条)判を受ける
  • 陪審裁判を受ける権利を放棄して、裁判官による裁判を受けることも可能
  • 陪審員は原則として12名により構成(連邦刑事手続規則第23条)
  • 直接主義・口頭主義(陪審に付さない手続においても同様)(連邦刑事手続規則第26条) 
  • 評決は陪審員全員一致でなければならない(連邦刑事手続規則第31条(a))
立証責任
  • 被告人の有罪を立証する責任は検察官が負う 
  • 起訴事実の主要部分について合理的疑いの余地のない証明をする義務(合衆国憲法修正第5条及び14条等)
黙秘権(自己負罪拒否特権)
  • 何人も刑事裁判において、自己に不利益な供述を強制されない
  • 被告人は、証人になること及び証言することを拒否できる(合衆国憲法修正第5条等)
虚偽自白による誤判の状況 
  • イノセンスプロジェクト
    • 1989~2010年2月までの間に、DNA型鑑定を行うことによって無実が証明された受刑者は261人
    • 約25%は虚偽の自白によるもの。虚偽の自白をした者のうち、約35%は18歳以下又は発達障害を有する者
  • 死刑情報センター(Innocence Project ホームページ)
    • 1976~2010年11月までの間、死刑を執行された者は、1,233人
    • 1973~2010年11月までの間、無実が証明された死刑囚は、139人
    • 1973~1999年までの間は毎年平均3.1人、2000年~2007年までの間は毎年平均5人が無罪であるにもかかわらず、死刑判決を宣告された(Death Penalty Information Center ホームページ)

取調べ以外の捜査手法

司法取引(答弁取引) 
  • 検察官と弁護人・被告人は、協議の上、答弁についての合意をすることができる
  • 被告人が、訴追された訴因、それよりも縮小された訴因又は関連する訴因のいずれかについて、有罪又は不抗争の答弁を行う場合、検察官が他の訴追を提起しないこと等の措置をとる旨の合意をすることができる
  • 裁判所は、答弁合意がされた場合、取引の内容を検討した上、当事者の合意を受け入れるかどうか決定する
    • 連邦刑事手続規則第11条 
  • 刑事免責
    • 裁判所が命令を発した場合には、証人は自己負罪拒否特権を理由として証言又はその他の情報の提供を拒むことができない 
    • 当該命令により強制された証言等は、いかなる刑事事件においても当該証人に対して使用することができない(合衆国法典第18編第6001~6003条)
通信受取調べ以外の捜査手法
  • 許可件数: 2,376件(2009年)
  • FBIや他の連邦捜査機関は、裁判所の許可により有線通信又は口頭の会話を傍受することができる
  • 裁判官は、「傍受対象犯罪が行われ、又は行われようとしていると信じるにつき相当の理由があること」等の要件を満たせば、傍受を許可する
  • 命令は30日間有効であり、延長可能
  • 通信事業者に対し、傍受に関する情報、設備、技術的援助を供与するよう命じることができる
    • 外国諜報情報の電子監視(合衆国法典第18編第2516条、第2518条等)
  • 許可件数: 2,370件(2007年)
  • 監視の対象が外国勢力又は外国勢力のエージェントであること等の要件を満たす場合は、特別の裁判所に対して電子監視を認める許可を請求できる
  • 裁判官は、要件を満たす相当の理由がある場合には電子監視を許可
  • 許可は、目標達成に必要とされる期間又は90日有効であり、延長可能(合衆国法典第50編第1802条~第1805条)
身分秘匿捜査 
  • FBI職員等は偽名又は架空の身分の使用を含む身分秘匿捜査を一定期間連続して行うことが可能
  • FBI本部又は地方事務所長の承認により活用可能
  • 盗品又は禁止物品の購入等の違法行為も承認により実施可能
    • DNAデータベース(FBIの身分秘匿捜査に関する司法長官の指針)
  • 登録件数(2010年5月現在)
    • 対象犯罪で有罪判決を受けた者、犯罪者DNA 833万2,712件 
    • 遺留DNA 31万9,601件
    • 合致件数 
    • 処罰や釈放条件等の間接強制に捜査に貢献した件数 11万6,000件以上
    • ヒット件数 11万8,300件以上(合衆国法典第42編第14132条、第14135条の条、各州法等)
その他調査中の捜査手法・犯罪予防の枠組み
  • 性犯罪者登録・情報提供制度
    • 有罪判決を受けた性犯罪者は、居住地の法執行機関に対し個人情報を提供
    • 一定の個人情報については、ウェブサイトで公開   
    • 全米性犯罪者登録簿により、法執行機関は性犯罪者情報を共有可能
    • 州によっては、GPSによる性犯罪者監視制度あり(Wetterling法、1996年Megan法、2006年児童保護・安全法、各州法等)
  • 証人保護制度
    • 司法長官は、組織犯罪又はその他の重大な犯罪に関係している証人及び証人となる可能性のある者に対し、移住やその他の保護措置を提供することが可能(合衆国法典第18編第3521条)
ドイツ連邦共和国における捜査手法、 刑事司法制度等の概要

ドイツ連邦共和国

人口
約8,820万人 (2009年現在)
警察機関
連邦: 連邦刑事庁、連邦警察局、税関刑事庁など
情報機関: 連邦情報庁、連邦憲法擁護庁など
州: 16州の警察機関、憲法擁護庁など

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ドイツ刑事司法の特色 (※数値は特記無ければ2008年のもの)

犯罪発生率
犯罪の発生認知件数: 611万4,128件 (日本の3.3倍)
人口10万人あたり: 7,436件 (日本の5.2倍)
殺人 (murder and manslaughter): 2,266件 (日本は1,297件)
捜査
捜査の主体は検察官
捜査手法
逮捕検挙: 警察は検察官の指揮を受けて捜査を行う(刑事訴訟法第160条、第161条)
司法傍受命令件数: 17,208件 (2009年) (日本は22件)
会話傍受可能 (日本はなし)
DNAデータベース登録件数: 66万8,721件 (2009年6月末) (日本は10万7,584件/遺留DNA除く2010年9月30日現在)
身元確認のために必要な措置 (拘束・捜索等)
いずれの捜査手法も刑事訴訟法に規定
行政傍受検挙件数: 335万3,473件 (日本は57万3,743件)
検挙率: 54.8% (日本は31.6%)
現行犯のほか、一定の場合に令状を要しない仮拘束が可能(刑事訴訟法第127条第1項、第2項)
勾留審査までの拘束
逮捕から勾留審査までの拘束可能時間: 拘束した翌日まで(刑事訴訟法第115条、第128条)
被疑者の取調べ
逮捕後の取調べ
  • 取調べ裁判官の元へ引致 (勾留審査)
  • 勾留・起訴
    • 起訴法定主義・弁解の機会を与えることに重点 (通常の身柄事件では1回実施する程度)
    • 被疑者取調べの録音・録画は義務付けられていない
    • 検察官、裁判官の取調べに弁護人が立会い可能(刑事訴訟法第163条第3項、第168条)
参考人の取調べ
  • 証人は、検察官が召喚した場合には出頭して事実を供述する義務(刑事訴訟法第161条a) (勾留審査)
勾留
勾留は原則6か月で延長可能。裁判官が必要性があるか審査し、勾留決定
起訴率: 約22.8% (日本は約44%)
検察官は、法律に定めのある場合を除き、訴追可能なすべての犯罪に対し、事実に関する十分な根拠が存在する限り起訴(刑事訴訟法第152条)
だし、軽微な犯罪の場合、賦課又は遵守事項履行の場合、重要でない余罪の場合等の法律の定めにより起訴しないことができる場合が広範(刑事訴訟法第53条等)
中間手続
検察官は起訴と同時に捜査記録を裁判所に送付
裁判所は、捜査記録を検討し、公判開始を決定(刑事訴訟法第199条、第203条)
職権主義
裁判所は真実を発見するため、職権で裁判をするのに意義を有するすべての事実及び証拠について証拠調べを及ぼす(刑事訴訟法第244条)
直接主義・口頭主義
捜査段階における供述調書等を証拠として取ることの原則禁止
口頭主義、直接主義が厳格に運用(刑事訴訟法第250条)
取調べ以外に供述等の証拠を得るための制度
王冠証人制度・司法取引・証人保護(刑法第46条b、刑事訴訟法第27条c、連邦刑事庁法等)
無罪率
無罪率: 約3.4% (日本は0.2%)
無罪人員: 2万4,065人

警察の刑事司法に関する権限等

警察の捜査等に関する権限等
  • ドイツでは、警察権限は基本的に州警察に属する
  • ただし、州や国境を越える犯罪に対応するため、連邦刑事庁等の連邦機関を設置
  • 取調べに関する規定、逮捕、捜索の権限、通信傍受、隠密捜査等の捜査手法に関する権限は刑事訴訟法に規定
  • 刑事訴訟法は連邦、州において効力を持つ。州法は補充的に適用
警察と検察の関係
  • 捜査の主体は検察官。警察は検察官の指揮を受けて捜査を行う(刑事訴訟法第160条、第161条)
  • 公訴提起は検察官の任務(刑事訴訟法第152条)
  • 検察官は、犯罪の嫌疑について認識を得た時は、事実関係を究明しなければならない。また、被疑者に有利にはたらく諸事情についても捜査しなければならない(刑事訴訟法第160条第1項、第2項)
  • 警察の職務は、事件混迷化を防止するため、犯罪行為を究明。捜査の結果は遅滞なく検察官に送付(刑事訴訟法第163条)

取調べの役割・比重

取調べの意義
  • 被疑者の取調べについては、遅くとも捜査の終了までに行わなければならず、簡単な事件については、書面で陳述する機会を与えれば足りる(刑事訴訟法第163条第1項)
  • 上記規定は、捜査機関に被疑者を追及することを求めているのではなく、弁解の機会を与えることなく公訴を提起することを禁止する趣旨
  • 被疑者は召喚により検察官の許に出頭する義務あり(刑事訴訟法第163条第3項)
被疑者の取調べに関する主要な規定
  • 最初の取調べの開始の際、
    • 嫌疑の対象とされている犯罪事実及び顧慮されている罰条
    • 被疑事実について陳述するか否かは、法律上、任意であること
    • いつでも選任する弁護人と相談できること
    • 自己に有利な証拠の取調べを請求することが
できることを告知等しなければならない(刑事訴訟法第136条第1項)
被疑者の取調べに関する主要な規定
  • 検察官の被疑者取調べに弁護人は立会うことができるが、警察の取調べについては規定なし(刑事訴訟法第163条第3項、第168条c)
  • 不当な取調べ方法の禁止
    • 暴行、疲労、傷害、薬物の投与、苦痛、欺罔等による被疑者の意思決定及び意思活動の侵害
    • 法が許容していない利益を約束すること等(刑事訴訟法第136条a)
  • 調書の作成については、刑事訴訟法上、検察官の審問行為の結果はこれを記録に記載するものとされている。警察官調書については規定なし(刑事訴訟法第168条b)
  • 様式については、基本的には被疑者の一人称の物語形式とQ&Aの併用
参考人の取調べに関する主要な規定
  • 検察官の証人召喚権限及び受忍義務
    証人は、検察官が召喚した場合には、出頭して事実を供述する義務
    正当な理由なくこれに応じない場合は、秩序等(刑事訴訟法第161条a)

被疑者取調べの実態

  • ドイツでは、捜査段階の供述調書に原則、証拠能力は認められないことから、捜査官による被疑者取調べは、弁解の機会を与えることに重点が置かれ、証拠保全としての機能は第2次的なものにとどまっている
  • 検察官は、重大事件、財政経済事件等を除き、自ら取調べを行わない
  • 被疑者取調べの回数について
    • 通常の身柄事件については1回
      例: ある強盗的恐喝被告事件では、捜査記録67丁のうち、被疑者調書は2丁のものが1通
    • 重大事件についても数回程度
      例: ある謀殺被告事件では、被疑者が犯人性を争い、アリバイを主張している事案であったが、被疑者の取調べは逮捕当日と翌日、5日後の3回のみ。その後、公訴提起がなされるまでの10か月近くの間、新たな目撃証言等の捜査の進展があったにもかかわらず、被疑者取調べは一切行われていない

参考人取調べの実態

  • 参考人の取調べは被疑者同様に淡泊。参考人を数回にわたり取調べることは、重大事件で特に必要性が生じた場合に限られる
    例: ある強盗的恐喝被告事件では、被疑者が犯行当時酔っていて記憶がないと供述していながら、当時被疑者とともに飲食した者から裏付けをとることもしていない

取調べの録音・録画

被疑者取調べの録音・録画
  • 被疑者に対する取調べの録音・録画は義務付けられていない
参考人取調べの録音・録画
  • 参考人に対する取調べは、下記の場合に画像・音声の記録媒体に記録義務付け
    • 18歳未満の被害者を取り調べるときに、当該被害者の保護すべき利益を守るため必要であるとき
    • 参考人を公判において取り調べることができず、真実発見のために記録が必要となることが懸念されるとき(刑事訴訟法第58条a)

取調べの技術とその伝承方法

  • 警察官の教育訓練過程でロールプレイを行うなどして訓練を実施
  • 実情は、年配警察官と若年警察官を取調べチームのペアとして、取調べ技術の伝承教育を実施

裁判における事実認定の状況

参審制
  • 参審員は公判において職業裁判官と同等の権限を持つ
    ただし、供述調書を含む捜査記録の閲覧等は認められていない(直接主義・口頭主義の厳格な運用)
  • 地方裁判所での構成は、裁判官1~3名、参審員2名
真実解明義務と職権主義
  • 裁判所は、真実を発見するため、職権で裁判をするのに意義を有するすべての事実及び証拠について証拠調べを及ぼす義務(刑事訴訟法第244条第2項)
直接主義、口頭主義
  • 捜査段階における供述調書等を証拠として取り調べることの原則禁止(刑事訴訟法第250条)
  • ただし、裁判官による調書に記載された被告人の供述は、自白についての証拠調べを目的として朗読できる(刑事訴訟法第254条)
自由心証主義
  • 裁判所は、審理の全体から形成された自由な確信に基づいて、証拠調べの結果を判断(刑事訴訟法第261条)
司法取引 (裁判所と手続関与者との合意)
  • 裁判所は手続関与者と、被告人の自白を前提に、判決の内容等を合意することができる(刑事訴訟法第257条c)
王冠証人制度
  • 一定の犯罪を行った被疑者の告白が、殺人、強盗等の対象犯罪の犯行の解明又は防止に寄与した場合、裁判所は刑の減免可能
  • これまで犯行解明等の対象は、薬物、テロ事件のみであったが、2009年に対象を殺人、強盗等の通信傍受の対象犯罪まで拡大
  • 減免の決定に際しては、告白された犯罪の罪種と規模、その犯行の解明及び防止の重要性、告白の時点等について考慮
  • 公判開始後に告白した場合は適用なし(刑法第46条b)
司法傍受命令件数 17,208件 (2009年)
  • 通信の傍受及び録音は、列挙された殺人、強盗等の対象犯罪に関する事実を裏付ける根拠があり、行為が重大であり、事案の解明又は被疑者の居所の捜査が他の方法では著しく困難であるか又は見込みがない場合に行うことができる
  • 原則、検察官の申立てのみにより裁判所が命令。緊急の場合は検察官が命令
  • 命令は最長3か月だが、延長可能(刑事訴訟法第100条a、第100条b)
会話傍受
  • 住居内の非公開の会話は、列挙された殺人、強盗等の対象犯罪について、上記通信傍受の要件に加え、私的な生活形成の核心領域に組み入れるべき発言は把握されないと推定される場合のみに行うことができる等の要件の下で傍受・録音することができる
  • 検察官の申立てのみにより裁判所が命令。命令は最長1か月だが、延長可能(刑事訴訟法第100条c、第100条d)
行政傍受 (信書、郵便及び電信電話の秘密の制限 (基本法第10条) のための法律)
  • 連邦・州の存立又は安全に対する差し迫った危険を防除するためであって、テロ等の犯罪を計画し、実行し、実行したと疑う事実の根拠がある場合等に通信の傍受・記録、郵送物の開封等を行うことができる
  • 実施機関は、連邦・州の憲法擁護庁、軍防庁、連邦情報庁(命令権限は連邦最高官庁)
  • 実施には、原則として「基本法10条審査会」による許容性と必要性についての事前審査が必要。命令期間は最長3か月有効で、延長可能
上記行政傍受には以下が含まれる ※数値はいずれも2008年
  • 個別的制限(個別の被疑者等の通信経路を対象とする監視等)の命令件数: 110件 (傍受対象者1,168人)
  • 戦略的制限(特定の人物の通信経路ではなく、武装攻撃、国際テロ等の防除を対象に一定の通信経路全体を監視等)の対象通信件数: 221万2,175件
隠密捜査官
  • 警察官がある程度永続的に変更された架空身分を与えられて捜査を行う
  • 架空身分を設定又は維持するため、必要な文書を作成、変更、使用することができる
  • 投入要件は、違法な薬物や武器の取引、通貨等の偽造等の重大犯罪が行われた十分な根拠があり、事案の解明が他の方法では達成の見込みがなく又は著しく困難であるとき
  • 原則、検察官の同意が必要だが、急速を要し、検察官の決定を直ちに得ることができないときには遅滞なく同意を求める必要(刑事訴訟法第110条a、第110条b)
DNAデータベース
  • 採取目的は、将来の刑事手続における同一性確定のため
  • 被疑者、被告人、確定力のある有罪判決を受けた者に対して、
    • 重大な犯罪、性犯罪の嫌疑がかけられている場合
    • 上記犯罪以外でも、その犯罪を繰り返した場合については、体細胞の採取が許されている(刑事訴訟法第81条g)
  • 採取は、被採取者の書面による同意が必要。同意がない場合は裁判所の命令が必要
登録件数 (2009年6月末)
対象者DNA 66万8,721件
遺留DNA 16万6,554件

その他の捜査手法等

  • 身元確認のために必要な措置 (拘束・捜索等)
    犯罪の嫌疑を受けた者については、検察官又は警察官は、その身元を確認するのに必要な措置をとることができる。嫌疑を受けた者を拘束しなければ身元の確認ができないとき等は拘束可能。また、身体、所持品について捜索、鑑識のための処分可能。犯罪の解明に必要である場合に限り、犯罪の嫌疑のない者でも身元を確認するため拘束可能。身元確認のための自由剥奪は最長12時間以内(刑事訴訟法第163条b、第163条)
  • ラスター捜査
    警察が公私の機関・団体に対し、特定のメルクマールに該当する人物の保有データの提出を要請し、それらのデータと手持ちのデータ等とを電子的に照合することにより、対象人物を抽出する捜査手法原則
    裁判官の命令により実施(刑事訴訟法第98条a、第98条b)
  • 証人保護プログラム
    目的は、証人が出廷して証言することの担保。証言することにより第3者に危害を加えられる可能性のある者、その者の家族等に新しいIDを与え、引っ越しをさせることを中心に行う(連邦刑事庁法第2条、3条、6条、第26条等)
フランスにおける捜査手法、 刑事司法制度等の概要

フランス

人口
約6,380万人 (2008年1月)
警察
国家警察、国家憲兵隊、自治体警察

※犯罪捜査の主体は司法警察・検察官・予審判事
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フランス刑事司法の特色※数値は特記無ければフランス、日本とも2008年のもの

犯罪発生率
認知件数: 372万5,588件 (日本の約2倍)
人口10万人あたり: 5,839件 (日本の一般刑法犯の数値で約4倍)
殺人既遂: 713件
強盗: 10万6,633件
強姦: 1万0,277件
現行犯捜査・予備捜査
警察・検察による捜査
  • 職務質問(身元確認質問) (刑訴78-1等)
    • 質問に応じる義務あり
    • 対象者の4時間留め置き、場合により指紋採取
  • 組織犯罪に対する通信傍受 (刑訴法706-95等)
  • DNAデータベース登録件数 (遺留DNA除く): 121万件 (2009年)
    (日本は10万7,584件 2010年9月30日現在)
  • 無令状の警察留置 (刑訴6377等)
    • 拘束時間は原則24時間
逮捕
逮捕(警察留置)人員: 53万0,994件
人口10万人あたり840人 (日本は77人)
検挙件数: 133万8,379件 (検挙率37.6%)
警察による取調べ
  • 出頭義務あり (強制は検事の許可必要)
  • 警察留置中の重罪被疑者の取調べは録音録画
  • 弁護人立会いは不可
検察官取扱い
公訴提起可能なもののうち公訴提起数: 152万6,396件
違警罪・軽罪・重罪
軽罪裁判所: 違警罪裁判所
軽罪: 10年以下の拘禁刑の罪(窃盗・詐欺等)
違罪: 軽微な犯罪(非公然の名誉棄損・汚物の放置等)
予審判事による捜査 (刑訴81, 176等)
  • 真実の発見に有用な一切の予審処分が可能
    その結果を受け当該事件の公判開始可否を決定
  • 重罪は必要的、他は必要に応じ (刑訴79)
  • 警察は嘱託を受け捜査(取調べ以外) (刑訴81等)
予審捜査
予審判事による捜査(予審期間: 平均20.2ヶ月)
【身柄がある場合】
  • 未決勾留 (145)
    重罪で1年、軽罪で4か月(延長可能: 重罪で最長4年、軽罪で最長2年)
    平均未決勾留時間: 7.3ヶ月(重罪では15.7ヶ月)
【身柄がない場合】
  • 通信傍受(4ヶ月+延長可能) (刑訴706-95)
    10年以上の拘禁刑にあたる重罪・軽罪で可能
  • 会話傍受(4ヶ月+延長可能) (刑訴706-96)
    組織犯罪に対して活用可能
  • 潜入捜査(4ヶ月+延長可能) (刑訴706-81)
    身分秘匿や犯罪供用物の譲り受けが可能
予審被疑者取調べ
  • 警察への嘱託はできない (刑訴152)
  • 弁護人の立会いが原則必要 (刑訴114)
  • 予審判事の執務室で行われる重罪予審被疑者の取調べは録音録画 (刑訴116-1)
公判
  • 罪種により管轄裁判所が異なる
    罪裁判所: 事件記録に基づく簡易手続、弁論を軽ない略式命令が可能
    軽罪裁判所: 公開の法廷で審理
    重罪院: 参審制を採用(有罪は8名以上の多数決)
  • 職権主義的進行
    裁判長主導による訴訟進行
  • 直接主義・口頭主義
    原則として公判廷において口頭で供述したものを証とする(遺愛裁判所は例外)
  • 内心の確信
    犯罪の証明は、あらゆる態様の証拠により行うことができ、裁判官は内心の確認に従い判断
重罪院の無罪率: 4.4% (1996年の調査) (日本は0.2% (2008年))

取調べの役割・比重

警察による取調べ
  • 司法警察員等は、関係者の呼び出し、供述の録取ができる。出頭の強制も可能(刑訴62、78)
  • 被疑者以外の者については、供述を録取後も供述の場に滞在させてはならない(刑訴62、78)
  • 警察留置する場合、「家族等への通知」「指定医師の検診」「弁護人の選任」に関する権利を告知しなくてはならない(刑訴63-1~4)
  • 重罪によって警察留置を受けた者に対する警察施設内での取調べは録音または録画が必要(刑訴64-1)
予審判事による取調べ
  • 弁護人がいない場合は弁護人選任権を告げる。弁護人の立会いが原則必要(刑訴116)
  • 重罪予審被疑者に対し、予審判事の執務室で行われる取調べは録音または録画が必要(刑訴116-1)
  • 警察に対し予審被疑者の取り調べを嘱託することはできない(刑訴152)
供述調書について
  • 供述調書は発話した質問を記載したものでなければならない(刑訴429)

取調べの録音・録画

録音録画の対象
  • 警察留置となった少年被疑者の取調べ (1945年2月2日オルドナンス第45-174号)
  • 重罪の嫌疑により警察留置となった者に対する警察施設での取調べ (刑訴64-1)
  • 重罪予審被疑者の予審判事の執務室における取調べ (刑訴116-1)
※予審終結事件のうち重罪にかかるもの: 8,111件 (2006年)
録音・録画導入の背景
  • 少年被疑者については、2001年に録音録画を導入。取調べにおいて誘導されやすいことが理由とされる。
  • 重罪被疑者については、2000年末にフランス北部ウトロー市で発覚した幼児の性的虐待に関する無罪事件が契機と言われている。
  • 2008年6月以降に重罪被疑者の録音録画が開始。
例外
  • 技術的な理由により録音録画が不可能であるとき(以下、重罪被疑者に対する録音録画の場合の例外)
  • 刑訴法規定の組織犯罪については録音録画不要
  • 複数が同時に取調べを受ける場合で、全ての取調べを録音録画することに支障がある場合
違反した場合
規定に反して録音録画がなされなかった場合の規定はない。

取調べの技術とその伝承方法

ProGREA計画(Processus Général de Receuil des Entretiens, Auditions et Interrogations: 面会・聴聞・尋問事例における一般的過程)
国家憲兵隊により実施中の計画
  • 人文科学の知識を取り入れた取調べ技術の開発が必要との認識
  • それまで取調官が有していた取調べ技術を系統化・資産化(教材化)する試み
    • 2003~2005年: 開発期間
    • 2005~2007年: 実験導入
    • 2008年: 技術の概念化
    • 2009年: 普及、一般化の試み

裁判官による事実認定

職権主義
  • 裁判長が職権主義的に進行を図り、被告人質問等を主導的に行う。交互質問制は採用されていない(裁判長の訴訟指揮権につき刑訴法309条)
直接主義・口頭主義と内心の確信
  • 一般に徹底した直接主義及び口頭主義を採用
    裁判官・参審員は、法廷における供述・書面の朗読を聴き心証を形成
  • 犯罪の証明は、あらゆる態様の証拠により行うことができる。裁判官は、その内心の確信に従い、判決をするものとする(刑訴427)
自白の証拠能力
  • 自白は、他の証拠と同様、裁判官が自由にこれを評価する(刑訴428)
黙秘権
  • フランス憲法には、黙秘権のみならず防御権一般について規定なし。黙秘権を制限する制度もなし。

虚偽自白による誤判の状況

ウトロー事件
  • 2000年末にフランス北部のウトロー市において、当時10歳の子供らが、両親から性的虐待を受けていると保母に訴えたことが発端で発覚した児童に対する性的虐待事件
  • 母親が事実を認めて父親を含め周囲の多数の人々が子供らに性的虐待をした旨を供述
  • 被害児童らが、母親の供述に合わせて周囲の人物の名前を虐待者として挙げる
  • 17人の被告人が重罪院に送致
  • 第一審で7名が無罪となり、控訴審では、母親が予審段階における供述を翻し、控訴した6人全員が無罪

取調べ以外の捜査手法等

有罪自認制度 (刑訴495-7~495-16)
  • 被疑者が(事前に)有罪性を自認した場合に、検察官が刑を提示し、被疑者が受け入れれば、裁判官にその刑の適用を請求できる。
  • 法定刑が5年以下の拘禁刑の軽罪に限ってのみ適用(18歳未満の未成年者による犯罪等は除かれる)。
  • 提示する刑については、拘禁刑については1年または法定刑の2分の1を超えることはできない。
改後者制度
  • 罪又は軽罪を犯そうとした者や犯した者が、当局に通報することにより犯罪の実行を回避させ得たときや犯行による損害の発生を防止したとき、共犯者の人定を明らかにした場合などに、その拘禁刑を減免
司法傍受
捜査において必要があると認めるとき
  • 現行犯捜査・予備捜査段階 (刑訴706-95)
    • 一定の組織犯罪について、検察官の要求により、勾留釈放裁判官が通信傍受を許可
    • 最大15日で、更新は1回のみ可能
  • 予段階階 (刑訴100)
    • 予審判事は、対象とする犯罪が10年以上の拘禁刑に当たる重罪又は軽罪であり、予審のため必要があるときに限り、通信の傍受を命令できる
    • 傍受期間は最大4ヶ月で、延長可能
2008年司法傍受実施件数: 約2万6,000件
行政傍受 (1991年7月10日法 (電信・電話傍受法) 3条)
  • 「国家安全」「フランスの科学・経済力の保護」「テロ予防」「組織犯罪の予防」等のために国防大臣、内務大臣等は傍受実施可能(許可権者は首相)
  • 収集された情報を証拠として使用することはできない
  • 有効期間は4ヶ月
2008年行政傍受許可件数: 5,906件
会話傍受等 (刑訴706-96以下)
  • 組織犯罪について可能
  • 予審判事は、予審のため必要があるとき、検事の意見を聴いた上で、共助の嘱託をした司法警察員等に対し、特定の場所又は自動車内における秘密の会話の傍受、私的な場所における関係者を秘匿撮影をするため、情報通信機器の設置を許可することができる
  • 許可は最大4ヶ月。更新可能
  • 機器の設置・撤去のために住居等へ立入るには、勾留釈放裁判官の許可が必要
潜入捜査 (刑訴706-80~87)
  • 予審段階の捜査において、検察官と予審判事の二重の監督下で潜入捜査の実施が可能
  • 特別に許可を受けた潜入捜査員が、犯罪者の傍らでその仲間、共犯者、隠匿者になりすまし、監視活動を行う
  • 対象犯罪は、組織犯罪に限定
  • 仮の人定事項の使用、犯罪供用物や犯罪によって得られた物の所持・輸送等、電気通信手段等を自らまたは犯罪実行者が利用できる状態に置くことなどができる。これらの行為によって刑事責任を負うことはない
  • 潜入捜査員の真の身分を漏えいした者は5年の拘禁刑
DNA型データベース (刑訴706-54条以下)
  • DNA型自動識別ファイル (FNAEG: Fichier national automatisé des empreintes génétique)
  • 人の生命・身体に関する犯罪、性犯罪、薬物事犯等の有罪確定者・被疑者からはデータベースへの照会・登録が可能
  • その他重罪または軽罪の被疑者でも、データベースとの照合は可能
  • データベースへの照会が可能な対象者がサンプル採取を拒否した場合には罰則が科せられる
  • 有罪確定者については強制採取が可能
登録件数 (2009年12月現在)
有罪確定者: 28万0,399件
被疑者: 93,754件
遺留DNA: 6万2,258件
計: 127万6,769件
合致件数 (1998~2009年12月末まで)
有罪確定者と遺留: 5,840件
被疑者と遺留: 1,557件
遺留と遺留: 44,231件
その他
  • CCTVカメラ
    街頭に設置されている防犯カメラを捜査に活用
  • ナンバープレート自動読み取りシステム
    LAPI (Lecteur Automatisé des Plaques d’Immatriculation) と呼ばれるシステムが存在
  • 買受け捜査
    薬物犯罪のみを対象に、検察官の許可で可能
イタリアにおける捜査手法、 刑事司法制度等の概要について

イタリア

法域
イタリア
人口
約5,990万人(2009年)
警察
5種の国家的警察組織
国家的警察の警察官(2008年):約29万3,538人(自治体警察は原則犯罪捜査を行わない)

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イタリア刑事司法の特色※数値は特記無ければ2008年のもの

犯罪の発生認知件数: 270万9,888件(日本の1.4倍) ※殺人610件・強盗4万5,867件
人口10万人あたり4524件(日本の約3倍)

予備捜査
公訴の提起に関する決定に必要な捜査。
予備捜査(最長18ヶ月)(刑訴326)
捜査は検察官が主宰
  • 予備捜査は検察官及び司法警察が行う
  • 司法警察の捜査は検察官が指揮・監督(刑訴326, 327)
捜査記録
  • 認知後48時間以内に検察官に通報(刑訴347)
  • 捜査記録は検察官保管の記録簿に編綴(刑訴375)
予備捜査の強制捜査
予備捜査・搜索等
  • 検察官が捜索・押収命令を発出(刑訴247等)
  • 通信傍受・会話傍受(刑訴266等)
    • 予備捜査担当裁判官の令状
    • 検察庁施設内等で通信傍受実施
    • 対象電話:約11万6,300対象(2007年)
      (日本は22件=対象電話・2008年)
逮捕・勾留
  • 逮捕は現行犯と緊急逮捕(検束)のみ(刑組380等)
    • 警察は逮捕後24時間以内に検察官に引渡し
      検察は逮捕後48時間以内に裁判官の追認請求
      逮捕人員:19万7,974人(日本は9万8,945人)人口10万人あたり約330人(日本は77人)
  • 5種類の人的保全処分(刑訴281~286)
    • 出国制限・出頭義務・自宅監禁・保全拘置等
    • 検察官の請求により、裁判官が命令
被疑者取調べ
司法警察による聴取(刑訴350)、尋問(刑訴370) 
  • 簡易事情取・身柄不拘束被疑者のみ可能・弁護人の立会いが必要 
  • 現行犯逮捕時等の捜査有益情報の聴取・弁護人の立会い不要・得られた情報の記録化、公判での使用は不可
  • 自発的申告の聴取・弁護人の立会い不要
  • 検察官からの身柄不拘束被疑者の尋問委託
検察官による尋問(刑訴370)
  • 弁護人は立会い権を有する(必要的ではない)
  • 身柄不拘束の場合のみ司法警察への委託が可能
身柄を拘束されている者の尋問は録音が必要

公判移行請求(起訴)

予備審理公開始決定公司

イタリア刑事司法の特色
※数値は特記無ければ2008年のもの
検挙人員:88万9,793件(逮捕人員+告訴人員)
起訴法定主義
事件終了要件(被疑者不詳、犯罪通報の無根拠等)がなければ公判移行請求、あれば事件終了請求が必要。
  • 予備審理担当裁判官が審理→ 捜査記録に基づく審理・弁護人の必要的関与    ※裁判官の公判開始決定の割合については、裁判官により大きく異なるとの報告あり。 
直接主義・口頭主義捜査資料不使用の原則
  • 公判用資料綴と検察官用資料綴に分離→公判用資料綴のみ公判管轄裁判所へ→公判用資料綴のみ証拠調べ(朗読)可能    検察官用資料綴の資料は弾劾証拠としてのみ使用可能 
  • 捜査段階の被疑者等の供述は、証言対象にできない    無罪率:約12%~23%判決(4か所の重罪院における過去の実態調査)

取調べの役割・比重

警察による取調べ
  • 被疑者等取調べは、「簡易事情聴取」「現行犯等における聴取」「自発的申告の聴取」(以上刑訴350)、検察官からの委託(刑訴370)の場合
  • 簡易事情聴取と検察官からの尋問の委託は身柄不拘束の場合のみ可
  • 簡易事情聴取については弁護人立会いが必要的 
  • 現行犯等における聴取による情報は、記録・捜査手続での使用不可
検察官による取調べ
  • 弁護人の立会権は保障(必要的ではない)・弁護人への通知は必要(刑訴364)
  • 存在する証拠の要旨等を告知し、弁解事項を説明するよう勧める(刑訴65)
  • 被疑者の同意がある場合でも、自己決定の自由に影響を及ぼす方法や技術を使用してはならない(刑訴64)
  • 現行犯等における聴取による情報は、記録・捜査手続での使用不可
  • 黙秘権は保障。調書に黙秘権行使の旨記載される(刑訴64,65)
  • 自発的か問答かを明確にした逐語の調書の作成が必要。ただし録音がある場合には要約調書も可能(刑訴134)
  • 身柄拘束を受けている者の尋問は録音が必要(刑訴141の2)
取調べの実態
  • 検察官自身の取調べは100件中1件程度、司法警察員に取調べを委任するのは100件中7~8件との報告あり。

取調べの録音録画

録音録画導入の経緯
組織犯罪や汚職犯罪において協力者の供述について信用性が問題となることが多かったことから、とくに精神的圧迫を受けやすい状況下にある身柄拘束中の協力者(身柄拘束を受けている者が捜査に協力する場合)の供述過程を明らかにするために録音録画の導入が検討され、1995年の刑事訴法改正により(身柄拘束を受けている者全般に)録音が義務化
録音録画の規定
  • 身柄拘束下にある者の尋問は常に録音または録画の方法により尋問全体を記録しなければならない(刑訴141の2)
  • 録画は必要に応じて行う(刑訴134)
  • 規定に反して録音がなされていない供述は証拠として使用できない(刑訴141の2)
  • 例外は、技術的に録音できない場合(機械の故障など)(刑訴140)

裁判官の事実認定

直接主義・口頭主義捜査資料不使用の原則
捜査段階で作成された供述調書等の書面は原則として公判で事実認定の根拠とすることはできない    例外は再現不能の証拠、証拠保全によって得られた証拠や同意書証等
  • 公判用資料綴のみが管轄裁判所に送付。朗読を通じてその内容が事実認定の基礎として用いられ得る(刑訴432,466、S11)
  • 検察官資料は、当事者のみ閲覧謄写が可能で、公判での朗読は基本的には禁止(刑訴433,514)
黙秘権について
  • 被疑者等の取調べの前に、黙秘権の告知が必要(刑訴64)
  • 黙秘を保全処分の理由としてはならない(刑訴274) 
  • 従前に行った供述の一部または全部について公判で黙秘した場合には、従前に行った供述により弾劾することは可能(刑訴500)
自白の証拠能力
  • 被疑者等の自白に関する特段の規定はない 
  • 被取調者の同意がある場合でも、自己決定の自由に影響を及ぼし、記憶又は事実の認識の能力に変更を及ぼす恐れのある方法や技術を使用してはならない(刑訴64) 
  • 違法に収集された証拠は使用することができない(刑訴191)

取調べ以外の捜査手法等

司法協力者(改悛者)制度
  • 対象犯罪は、「テロリズム又は民主主義の破壊を目的とする犯罪」「薬物犯罪」「マフィア犯罪」 
  • 組織を離脱し、違法行為の結果の拡大を防止することに努めた者、共犯者の特定・逮捕のため決定的な証拠の収集について警察等に協力した者の刑を、無期懲役は12年~20年の間の懲役に、その他の懲役刑は3分の1から3分の2の間で刑を軽減(刑法630) 
協力者保護制度
  • 改悛者(司法協力者)及びその家族は、警察による警戒措置、身分の改変、居住地の変更、継続的な経済援助等の保護措置を受けることができる(2001年2月13日n45法)
「短縮裁判」 「当事者の請求に基づく刑の適用」
  • 当事者の合意に基づき、裁判官に請求。被告人の減刑等と引き換えに公判手続に依らない判決を可能にする。 
  • 「短縮裁判」では、有期懲役はその3分の1が減軽。無期懲役は30年の懲役に減刑(刑訴438~443)
  • 「当事者の請求に基づく刑の適用」は、2年以下の拘禁刑及び2年超5年以下の拘禁刑にあたる罪で適用可能。3分の1まで減刑(刑訴444~448)
  • 被告人の有罪自認は要件ではない。
※当事者の請求に基づく刑の適用は、「マフィア犯罪」「テロリズム関係犯罪」には適用されない。
司法傍受(通信傍受・会話傍受)(刑訴226等)
  • 対象犯罪は、5年以上の懲役で処罰される犯罪、薬物犯罪、電話を手段とする名誉棄損や脅迫等 
  • 犯罪についての重大な兆候が認められ、捜査の続行のために傍受が絶対に必要であることが要件 
  • 個人の住居における会話傍受は、犯罪行為がその場で行われていると認めるに足りる合理的理由が要求される
  • 裁判官の許可が必要
  • 傍受の期間は15日間(延長可能)
  • 組織犯罪については、要件が緩和され、期間も40日間(延長可)
傍受の対象数
12万8,805対象(2007年)
その他(コンピュータ等)電話
11万6,303対象
会話
1万0,703対象
予防のための傍受(通信傍受・会話傍受)(刑事訴訟法細則266)
  • 「マフィア型結社罪」「身代金目的の誘拐罪」「麻薬取引の謀議の罪」「テロ「犯罪」等の予防のために情報収集する必要があることが要件
  • 監視対象者の所在する地域の検察庁の長の許可が必要
  • 傍受の期間は40日間で、延長可能 
  • 得られた結果は刑事手続で使用不可。捜査目的での使用は可能であるが、手続での言及、証言の対象とすること、公開はできない。 
実施件数:230件(2009年)
秘匿捜査官
  • 対象犯罪は、「薬物犯罪」「テロを目的とする犯罪」
  • 薬物犯罪の捜査(麻薬統一法典97)
    • 薬物犯罪の証拠収集のみを目的とすることが必要
    • 麻薬対策局の指示、または合意を得る必要
    • 麻薬・向精神薬の購入、受理、隠匿等は処罰されない 
    • 仮装の身分証等の使用が可能(証人保護センターが発行)
  • テロを目的とする犯罪の捜査(国際テロ法4)
    • 金銭・武器・薬物等、犯罪遂行のための物の購入、収受、隠匿等は処罰されない 
    • 仮装の身分証等の使用が可能(証人保護センターが発行) 
  • 担当の検察官に必要な連絡を行う 
  • 薬物犯罪に関する秘匿捜査官の氏名等を不当に公表したものには罰則がある
その他
  • DNA型データベースは整備されていない。立法を現在検討中。    DNA型鑑定自体は捜査に活用。被疑者等からのサンプルの採取には裁判官の令状が必要
  • CCTVカメラは捜査に活用。公共空間へのカメラの設置に関する特段の規定はない。他の者が設置したカメラの映像は任意提出を受け活用。

捜査手法、 取調べの高度化を図るための研究会第11回

オーストラリアにおける捜査手法、刑事司法制度等の概要

オーストラリア

人口
約2,256万人 (2010年)
構成
6の州、1の準州、首都特別地域等
警察
連邦警察、州警察等で組織
警察官
4万8,024人 (2008年)

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オーストラリア刑事司法の特色※数値は特記なければ2009年のもの

犯罪発生率
認知件数: 796,903件 (日本の約0.6倍)
殺人: 530件 (日本は1,094件)
捜査手法等
  • 逮捕: 人口10万人あたり 3,741件 (刑訴78-1等)
  • 通信傍受令状発付: 3,220件 (2008年度、日本は22件)
  • 会話傍受等の監視装置使用の承認: 413件 (2008年度、連邦のみ)
  • DNAデータベース登録 (遺留DNA除く): 約40万件 (2010年、日本は10万7,584件)
  • 潜入捜査等
逮捕
  • 無令状逮捕が可能 ※ Law Enforcement Act 2002 第99条
  • 発生後30日における検挙件数: 123,983件 (日本は384,941件)
  • 発生後30日における検挙率: 15.6% (日本は28.2%)
取調べの比重が低い
  • 身柄拘束による捜査期間は原則4時間 (最大12時間) ※Law Enforcement Act 2002 第115条
取調べの可視化
  • 自認は、取調べ過程について録音・録画された場合を除いては、証拠として許容されない ※Criminal Procedure Act 1986 第281条
  • 弁護人の立会いが可能 ※Law Enforcement Act 2002 第123条
起訴
  • 正式起訴犯罪については、検察官が起訴 (prosecution)、簡易処理犯罪については警察が起訴 (Charge)
  • 公判付託手続において、マジストレイトが、被告人を公判手続に付するか決定 ※Criminal Procedure Act 1986 第65条
有罪答弁制度
  • 有罪答弁が得られれば量刑手続きへ移行 ※Criminal Procedure Act 1986 第102条
  • 裁判所は、有罪答弁の事実と有罪答弁をした時期を考慮 (判決までの答弁で25%減刑) ※Crimes (Sentencing Procedure) Act 1999 第22条
  • 司法取引、刑事免責 ※Prosecution Policy of the Commonwealth 6.14~6.18、Director of Public Prosecution Act 1983 第9条
裁判所
ローカルコート、ディストリクトコート、スプリームコートに分かれる。ディストリクトコート、スプリームコートは陪審制で行われる。陪審員は事実認定を行い、判事は刑を決定
無罪率: 約44% (640件中280件)

取調べの役割・比重※ニュー・サウス・ウェールズ州の状況

被疑者の取調べに関する主要な規定
  • 逮捕した被疑者を、取調べの目的で4時間を超えない正当な時間勾留可能 ※Law Enforcement Act 2002 第115条
  • 州によって規定は様々
  • ヴィクトリア州では「合理的な時間内」とされる
被疑者の権利
  • 留置主任者 (Custody Manager) は次の権利を告知:
    • 黙秘権があること
    • 供述は証拠となること
    • 友人、親族、法律の専門家等と相談する権利があること ※Law Enforcement Act 2002 第122条、第123条
取調べ時間等の実情
  • 取調べ時間、自白率について以下の調査結果あり:
    • 録音・録画が実施された175件のサンプル中、1時間以内が80%
    • 一番長いもので3時間30分程度
    • 自白率は同サンプル中24%

取調べの録音・録画

導入の背景
  • 法廷における証拠の採択において、虚偽自白や取調べ官への供述と法廷での供述とが異なるケースがあり、裁判官から録音・録画の求めがあった
導入の状況
  • 1990年代から連邦・各州において法制を導入
  • ニュー・サウス・ウェールズ州は1991年から、連邦は1995年から
  • すべての州で録音・録画を実施。規定は各州により異なる
取調べの録音・録画の法制
  • ERISP (Electronic Recording of Interviews with Suspected Persons)プログラムに基づき実施
  • 自認は以下の場合を除いて証拠として許容されない:
    1. 1. 裁判所が、当該捜査官が作成した記録テープ等を利用できる場合
    2. 2. 検察官が記録テープを作成できなかった合理的な理由について証明をする場合 ※Criminal Procedure Act 1986 第281条第2項
  • 対象: 正式起訴犯罪 (身柄拘束の有無は問わない) ※Criminal Procedure Act 1986 第281条第1項
  • 正式起訴犯罪が対象。殺人等の重大犯罪の他、被害額5,000ドル以上の財産犯、身体に対する犯罪、ストーカー犯罪、脅迫罪等が含まれる。
  • 合理的な理由とは
    • 機械の故障
    • 被疑者による記録の拒否
    • 記録装置の利用ができない場合 ※Criminal Procedure Act 1986 第281条第4項
事前取調べ
  • 正式な録音・録画される取調べの前に、長時間の事前取調べは禁止
  • 取調べ室以外での事前取調べは、以下の目的でのみ実施:
    • 他人への妨害、証拠隠滅、未逮捕者への通謀、財物の回収妨げの恐れ
    • 152名の警察官の調査で、6~7割の自白は録音・録画開始前に得られていた
  • 記録装置の利用ができない場合 ※Criminal Procedure Act 1986 第281条第4項
弁護人の立会い
  • 取調べに弁護人の立会いが認められている ※Law Enforcement Act 2002 第123条

録音・録画の影響

裁判における事実認定

事実認定
  • 公判付託手続において、被告人が無罪の答弁をした場合、12名の陪審員が事実認定を行う。有罪評決があった場合、判事が量刑判断を行う
  • 検察官は、起訴事実について「合理的な疑いの余地なく証明」する義務がある ※Evidence Act 1995 第141条
自白の証拠能力
  • 暴力、脅迫、非人間的で品位を貶める言動、脅迫的言動によって得られた自認は排除 ※Evidence Act 1995 第84条
  • 自認がなされた状況に照らして、自認の真実性が著しく損なわれている可能性がない場合のみ証拠として許容される ※同法第85条
自白の証拠能力
  • 自白は、他の証拠と同様、裁判官が自由にこれを評価する(刑訴428)
黙秘権
  • 留置主任者 (Custody Manager) は黙秘権があること、供述は証拠となることを告知 ※Law Enforcement Act 2002 第122条、第123条
  • 黙秘権は不利益推定には使われない ※Evidence Act 1995 第89条
虚偽自白による誤判状況
  • 誤判に関する公的な統計は存在しない
無罪率
  • 無罪率: 約44% (640件中280件)

取調べ以外の供述を得るための制度

有罪答弁制度
  • 有罪答弁をした犯罪者に判決を下す場合、有罪答弁の事実と有罪答弁をした時期を考慮し、刑罰を軽減可能 ※Crimes (Sentencing Procedure) Act 1999 第22条
  • 有罪答弁をすれば刑が25%減軽 ※Criminal Case Conferencing Trial Act 2008 第17条
  • 有罪答弁を行えば、証拠調べを行うことなく量刑手続きへ移行 ※Criminal Procedure Act 1986 第102条
司法取引 (連邦法の場合)
  • 被告人と検察側との交渉・合意が可能
  • 罪数や軽い罪での有罪答弁により、残りの罪の不起訴や有罪判決手続きが行われないように配慮
  • 考慮事項: 捜査や他人の訴追に協力する意思やその程度、公判と公訴手続に関する時間や費用等 ※Prosecution Policy of the Commonwealth 6.14 – 6.18、※Director of Public Prosecutions Act 1983 第9条
刑事免責 (連邦法の場合)
  • 検事総長が適当と認める場合、個人が提供する情報等を裁判で当該個人に対する証拠として使わない約束や特定の罪や特定の行為について訴追しない約束を与えることが可能
  • 連邦訴追ガイドラインでは以下の条件を満たす場合に適用:
    • 他人の有罪立証のために重要な証拠を提供できること
    • 他からでは証拠を得ることができないこと
    • 他人の犯罪行為の方が当該者よりも重大であること ※Prosecution Policy of the Commonwealth 6.6
証言強制
  • 連邦王立委員会 (Royal Commissions)
    • 1902年王立委員会法により連邦で設立
    • 総督により授権、コミッショナーは政府の助言を受けて任命
    • 強制的な情報収集のための命令権限:
      • 証拠を得るために証人を召喚
      • 資料や物証提出のため証人を召喚、またはこれらの作成を求める
      • 宣誓の下に証言を得る
    • 正当な理由なく上記命令に従わなかった者は、最高1000ドルの罰金または6ヶ月の懲役 ※Royal Commission Act 1902 第2条、第3条
  • その他の証言強制機関はオーストラリア連邦犯罪取締局 (Australian Crime Commission) など

取調べ以外の捜査手法等

通信傍受
  • Telecommunication (Interception and Access) Act 1979 により実施
  • 対象犯罪: 懲役7年以上の長期刑 (殺人、誘拐、テロ、児童ポルノ、組織窃盗など)
  • 裁判官は特定の人物が通信設備を利用している合理的な理由があり、得られる情報が捜査に資すると認められる場合に発付
  • 通信傍受令状の有効期間は90日以下 (更新可)
  • 通信業者には傍受可能性の提供が義務付けられている
  • 令状発付件数: 3,220件 (2008年度)
  • 傍受を実施したケースのうち2,109件が有罪判決を受ける
会話傍受等
  • Surveillance Device Act 2004 により実施
  • 対象犯罪: 懲役3年以上の長期刑
  • 4種類の監視装置 (Listening Device, Data Surveillance Device, Optical Surveillance Device, Tracking Device)
  • 令状発付件数: 413件 (2008年度)
  • 有罪判決を受けたケース: 21件
  • ニュー・サウス・ウェールズ州では半年間に394件の令状に基づき2,140装置を設置 (2009年)
潜入捜査
  • Crimes Act 1914 第15KB条に基づき実施
  • 法執行機関の長は、犯罪捜査や情報収集等の目的のため、必要性等の要件を満たす場合は、職員に仮の身分の取得、使用を許可
  • 仮の身分を使用しているときの犯罪等は、法的責任を問われない
  • 期間は最大3ヶ月
  • 麻薬捜査等で活用
  • 連邦では、74件の承認 (2008年度)
  • ニュー・サウス・ウェールズ州では、313件の承認 (2009年度)
DNAデータベース
  • DNAサンプルの採取等に関する規定は州等で異なる
  • 被疑者、重大な正式起訴犯罪 (懲役5年以上の長期刑) の有罪確定者から採取 (ニュー・サウス・ウェールズ州)
  • 2001年、連邦政府がNCIDD (National Criminal Investigation DNA Database) を設立
  • 2009年に全州で相互に照会が可能となる
  • 登録件数 (2010年6月現在)
    • 被疑者、有罪確定者等: 397,755件
    • 現場遺留DNA: 141,475件
その他の捜査手法等
  • ナンバープレート自動読み取りシステム (ANPR: Automatic Number Plate Recognition)
  • CCTVカメラ: ニュー・サウス・ウェールズ州では、自治体が設置するCCTVカメラの映像は警察が管理
  • 犯罪捜査のために使用する場合は令状請求
  • 暴力犯・性犯罪者登録システム: 連邦、州等により規定が異なるが、児童に対する性犯罪者や一定の重要犯罪で有罪を受けた者が登録、監視
  • ニュー・サウス・ウェールズ州の場合、Children Protection (Offenders Registration) Act 2000
  • 証人保護制度: 連邦では連邦警察長官が国家証人保護プログラムの対象者を選定し、新規の身分の申請、移住、生活費の支払い等を実施 Witness Protection Act 1994
大韓民国における捜査手法、 刑事司法制度等の概要

大韓民國

法域
大韓民國
人口
約4,830万人(2009年)
警察機関(国家警察)
警察庁、地方警察庁(16)
警察官
9万9,554人(2009年)

その他、情報機関(国家情報院)あり
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大韓民國の特色※数値は特記無ければ2008年のもの

犯罪発生率
  • 刑法犯認知件数: 89万7,536件(日本の0.5倍)
  •    
  • 人口10万人あたり1,812人(日本の1.3倍)
  • 殺人: 1,120件(日本1,297件、人口比で日本の2.3倍)
捜査手法等
  • 捜査の主体は検事
  • 警察は検事の指揮を受けて捜査を行う ※刑事訴訟法第195条、第196条
  • 任意捜査が原則 ※同法第199条第1項
  • 司法傍受・会話傍受可能 ※通信秘密保護法に規定
  • DNAデータベース(2010年7月運用開始、データ数不明) 
    • 殺人、強盗、強盗・強制わいせつ等の11類型の犯罪により拘束された者、刑の宣告を受けた者等から採取可能
    • 原則、裁判官の令状が必要 ※DNA身分確認情報の利用及び保護に関する法律に規定 
  • 性犯罪者等に対する位置追跡電子監督制度 
  • 国家安保のための傍受 
  • 満17歳以上の全国民の指紋登録制度により登録された指紋の捜査活用等
検挙
検事が拘束令状を請求(逮捕の場合)
  • 拘束検挙件数: 70万9,117件(日本は57万3,743件)
  • 検挙率: 79.0%(日本は31.6%)
  • 現行犯のほか、逮捕・拘束には令状が必要(逮捕前置主はとらない。) ※刑事訴訟法第200条、第201条、第212条
  • 逮捕に引き続き拘束する場合は、48時間以内に拘束令状を請求
  • 拘束令状による警察の拘束期間は10日間。身柄引致後、検察において10日間拘束可能(10日間の延長可)
  • 起訴前の身柄拘束期間は最大30日間 ※刑事訴訟法第200条の2、同条の3、第202条、第203条、第205条
取調べ
被疑者の取調べ 
  • 取調べは真相解明のために重要
  • 調書は大多数が一問一答式
  • 供述が不利益事実の承認か否か等にかかわらず、不同意とされた警察官作成の被疑者調書に証拠能力なし ※刑事訴訟法第312条第3項
  • 被疑者取調べの録音・録画は検察官・警察官の裁量により実施 ※同法第244条の2
  • 被疑者の取調べに弁護人が立会い可能 ※同法第243条の2
起訴便宜主義
起訴率: 約32.8%(日本は約44%)
起訴当事者主義
裁判所は、検事が申請した証拠を調査した後、被告人又は弁護人が申請した証拠を調査する。 ※刑事訴訟法第29条の2
公判
  • 原則、職業裁判官による裁判 
  • 国民参与裁判の対象犯罪は、刑法犯において人の死亡の結果が発生した場合、強盗強姦、強盗致傷、強姦致傷等 ※国民の刑事裁判参与に関する法律第5条第1項 
無罪率
無罪率: 約20%(日本は0.2%)
無罪人員: 2,282人

警察の刑事司法に関する権限等

警察の捜査等に関する権限等
  • 韓国の警察は国家警察
  • 行政安全部長官の下に警察庁、警察庁の任務を地域的に分担して遂行するため、特別市長・広域市長・道知事の下に地方警察庁、地方警察庁長の下に警察署(警察法第2条第2項)
  • 捜査手法に関する権限
    刑事訴訟法(取調べ、逮捕、捜索等)、通信秘密保護法(通信傍受)、DNA身分確認情報の利用及び保護に関する法律(DNA鑑識資料の採取)等
警察と検察の関係
  • 捜査の主体は検事。警察は検事の指揮をうけて捜査を行う。(刑事訴訟法第196条)
  • 公訴提起は検事の任務(同法第246条)
  • 検事は、犯罪の嫌疑あると思料するときは、犯人、犯罪事実及び証拠を捜査しなければならない。(同法第195条)

取調べの役割・比重

取調べの意義
  • 検事又は司法警察官は、捜査に必要であるときは、被疑者の出頭を要求して陳述を聞くことができる。(刑事訴訟法第200条)
  • 取調べは、刑事事件の真相を明らかするために重要
被疑者の取調べに関する主要な規定
  • 被疑者を尋問する際、”一切の陳述をしない、又は個々の質問に対して陳述しないことができること
  • 陳述しなくとも不利益を受けないこと
  • 陳述を拒否する権利を放棄して行った陳述は、有罪の証拠として使用できること
  • 尋問を受ける際は、弁護人の立会い等、弁護人の助力を受けることができることを告知しなければならない。(刑事訴訟法第244条の3第1項)

取調べの役割・比重

被疑者の取調べに関する主要な規定
  • 尋問を行う際は、検事は検察庁捜査官等を、司法警察官は司法警察官吏を立ち会わせなければならない。(刑事訴訟法第243条)
  • 警察官は、原則として、午前0時から6時までの深夜に取調べを行ってはならない。(人権保護のための警察官職務規則第64条)
被疑者の取調べの弁護人の立会い
  • 検事又は司法警察官は、被疑者又は弁護人等の申請により、正当な事由※がない限り、尋問に立ち合わせなければならない。(刑事訴訟法第243条の2第1項) ※正当な事由について、判例では、「弁護人が取調べを妨害したり、捜査機密を漏えいするおそれが客観的に明白な場合等をいう。」としている。(大法院2008.9.12 2008.793決定)
  • 実施件数(2009年)~検察: 962件(参考)2008年中の総検挙人員 232万2,822人
供述調書の様式
  • 調書の様式は、大多数が一問一答式
      取調べの全過程における取調べ官と被疑者との問答対話を全て録取されるわけではなく、結局、供述の重要部分のみが要約。問答式で調書を作成しても、最終的には取調べ官の認識に基づいて調書化されるため、その主観的要素を排除することは限界等の指摘あり。
取調べ環境(警察) 
警察の事務室(オープンスペース)の状況、映像録画室(個室)の状況
  • 事務室(オープンスペース)の状況
  • 映像録画室(個室)の状況

取調べの録音録画

録音・録画導入の背景
2008年1月から法制化目的
捜査手続の適法性及び透明性の保障、人権侵害の防止、検事作成に係る被疑者調書の証拠能力の補完等(法務部「改正刑事訴訟法」2007年、120P、229P)
供述調書の証拠能力
供述調書の証拠能力の画像
  • 検事が被告人となった被疑者の陳述を記載した調書は、適法な手続及び方式により作成されたものであって、被告人が陳述した内容と同一に記載されていることが公判準備又は公判期日における被告人の陳述により認定され、この調書に記載された陳述が特に信用できる状態で行われたことが証明されたときに限り、証拠とすることができる。(刑事訴訟法第312条第1項)
  • 第1項にかかわらず、被告人がその調書の成立の真正を否認した場合は、その調書に記載された陳述が被告人が陳述した内容と同一に記載されていることが映像録画物、その他客観的方法により証明され、その調書に記載された陳述が特に信用できる状態においてなされたことが証明された場合に限り、証拠とすることができる。(刑事訴訟法第312条第2項)
  • 検事以外の捜査機関が作成した被疑者尋問調書は、適法な手続及び方式により作成されたものであって、公判準備又は公判期日に、その被疑者であった被告人又は弁護人がこの内容を認めたときに限り、証拠とすることができる。(刑事訴訟法第312条第3項)
  • 検事又は司法警察官が被告人ではない者の陳述を記載した調書は、適法な手続及び方式により作成されたものであって、その調書が検事又は司法警察官の前で陳述した内容と同一に記載されていることが、原陳述の公判準備又は公判期日における陳述、又は映像録画物又はその他の客観的な方法により証明され、被告人又は弁護人が、公判準備又は公判期日にその記載内容に関して原陳述者を尋問することができたときは、証拠とすることができる。ただし、この調書に記載された陳述が、特に信用できる状態においてなされたことが証明されたときに限る。(刑事訴訟法第312条第4項)
被告人参考人映像録画物によって成立検面のみ検面及び員面の立証可能な調書映像録画物の証拠能力
  • 映像録画物に独立した証拠能力なし。
      ※映像録画物を独立証拠として使用することについて争いあり(裁判所は消極、検察は積極)。
  • 映像録画物は、調書の真正成立の立証、及び被告人等の記憶喚起に使用可能。(刑事訴訟法第312条第2項・第4項、第318条の2第2項)
捜査官の裁量による実施
  • 被疑者の陳述は映像録画できる。この場合、予め映像録画事実を告げなければならず、取調べの開始から終了までの全過程及び客観的状況を映像録画しなければならない。(刑事訴訟法第244条の2第1項)
  • 被疑者に対する第1回及び第2回の取調べ時は映像録画せずに取調べを行ったが、第3回の取調べから映像録画した場合、この映像録画物の使用は許容される。
  • 当該取調べにおいて、意図的に取調べ過程の一部のみを選別し、映像録画する方法は許されない。(法務部「改正刑事訴訟法」2007年、124P) ※刑事訴訟法の改正に係る国会審議過程において、全ての取調べ過程を録音・録画すべきとの意見があったが、映像録画物は調書の真正成立の証明のために使用するのであるから、全ての取調べを録音・録画する必要がないなどの理由から、同意見は採用されず。(法務部「改正刑事訴法」2007年、123-124P)
取調べの録音・録画実施状況(2009年)
  • 警察: 7万3,371件(うち被疑者取調べは5万224件)
  • 検察: 5万3,555人(うち被疑者は4万4,907人) ※検察の統計は2009年3月~12月
    ※警察・検察ともに延べ数(例えば1人の被疑者について3回録音・録画を行った場合、警察: 3件、検察: 3名とカウント)
    (参考)2008年中の総検挙人員 232万2,822人

取調べの技術とその伝承方法

  • 警察:2006年2月、「取調べ技法専門課程」(1週間)を新設。警部級以下の捜査部門の職員が参加し、取調べの実習等を行う。
  • 検察:2010年2月、大検察庁において「調査尋問原理核心原理実務マニュアル」を開発。同年7月、取調べに関する教育・研究開発のため、法務研修院に陳述証拠分析センターを設置。

裁判における事実認定の状況

証拠裁判主義
  • 事実の認定は証拠によらなければならない。(刑事訴訟法第307条第1項)
  • 犯罪事実の認定は、合理的な疑いがない程度の証明がなされなければならない。(同法第307条第2項)
当事者主義
  • 裁判所は、検事が申請した証拠を調査した後、被告人又は弁護人が申請した証拠を調査する。(刑事訴訟法第291条の2)
自由心証主義
  • 証拠の証明力は、裁判官の自由判断による。(刑事訴訟法第308条) 
違法収集証拠の排除
  • 適法な手続によらずに収集した証拠は証拠とすることができない。(刑事訴訟法第308条の2)
国民参与裁判(2008年1月導入)
  • 国民参与裁判の対象犯罪は、刑法犯において人の死亡の結果が発生した場合、強盗強姦、強盗致傷、強姦致傷等(国民の刑事裁判参与に関する法律第5条第1項)(同法第8条第1項) 
  • 国民参与裁判と職業裁判官による裁判の選択は、被告人の判断
  • 陪審員(原則として7人又は9人)は事実認定、法令適用及び量刑に関して意見を述べる(この意見は裁判所を拘束しない。)。(同法第46条第5項) 
  • 裁判所は、陪審員の評決と異なる判決を宣告するときは、判決書にその理由を説明しなければならない。(同法第49条第2項) 
  • 2008年中の実施件数は60件(第1審刑事公判事件総数は26万8,572件)、うち無罪6件(一部無罪2件を含む。)無罪率 10%

取調べ以外の捜査手法等

犯罪捜査のための傍受(通信傍受・会話傍受)
  • 傍受の主体は、検事又は司法警察官 
  • 対象犯罪の計画、実行、又は実行したと疑うに足る十分な理由があり、他の方法によってはその犯罪の実行の阻止、犯人の逮捕、又は証拠の収集が困難な場合に実施可能(通信秘密保護法第5条第1項、第6条第1・2項) ※対象犯罪は、公務員の職務に関する犯罪、放火、殺人、脅迫、略取誘拐、強姦、窃盗、強盗、恐喝、薬物犯罪、銃器犯罪等多岐にわたる犯罪
  • 検察官の申請により裁判官の令状を得て実施
  • 傍受の期間は2か月だが、2か月の範囲内で延長可能(同法第6条第7項)
  • 実施件数は非公開とされている。
国家安保のための傍受(通信傍受・会話傍受)
  • 傍受の主体は情報捜査機関の長
  • 国家安全保障に対する相当な危険が予想され、この危害を防止するためにこれに関する情報収集が特に必要な場合に実施可能(通信秘密保護法第7条第1項)
  • 通信の一方又は双方が韓国国民であるときは、高等裁判所部長判事の許可を得て、その他の場合は、書面で大統領の承認を得て実施(同法第7条第1項)
  • 傍受の期間は4か月だが、4か月の範囲内で延長可能(同法第7条第2項) 
  • 実施件数は非公開とされている。
DNAデータベース
  • 2010年7月、「DNA身分確認情報の利用及び保護に関する法律」施行、DNAデータベースを運用開始
  • 法の目的は、犯罪捜査及び犯罪予防に貢献し、国民の権益を保護すること(DNA身分確認情報の利用及び保護に関する法律第1条)
  • 運用機関は、検察総長及び警察庁長官(同法第4条第1項、第2項) ※検察・警察において取得されたデータは、「DNA人跡管理システム」に統合して運用。
  • 殺人、略取・誘拐、強姦・強制わいせつ、強・窃盗、薬物犯罪等11類型の犯罪により拘束された者、刑の宣告を受けた者等から採取可能(同法第5条、第6条)
  • 原則、裁判官の令状が必要(採取対象者が同意した場合は不要)(同法第8条)
性犯罪者等に対する位置追跡電子監督制度
  • 性暴力犯罪、未成年者誘拐、殺人を犯し、再犯のおそれのある者の身体に電子装置を付着して常にその行動を追跡
  • 検事の請求により、裁判所が付着命令を宣告(特定犯罪者に対する位置追跡電子装置等に関する法律第5条、第9条)
  • 裁判所は、付着命令の宣告時、次の遵守事項を定めることができる。    特定時間帯の外出制限、特定地域への出入禁止、居住地域の制限、特定人への接近禁止等(同法第9条の2)
  • 付着期間は最長30年(同法第9条)
  • 電子装置を身体から分離するなどした場合7年以下の懲役又は2000万ウォン以下の罰金(同法第14条、第38条)
  • 行動を追跡した資料は、捜査及び裁判に使用可能(同法第16条第2項)
  • 2010年6月23日まで、被付着者は延べ607名、うち再犯者は1名(再犯率0.17%)(ソウル保護観察所提供の資料による。)
満17歳以上の全国民の指紋登録制度 
  • 住民登録法により、満17歳以上の全国民が指紋を登録
  • 警察庁において、1975年から、全ての17歳以上の国民が、住民登録証の発給を受ける際に自治体に提出する住民登録証発給申請書(姓名、写真、住民登録番号、住所、十指指紋等が記載されたもの。)を一括管理し、データベース化して、犯罪捜査及び各種自然災害、大規模事件事故が発生した際の身元確認等に利用(2010年警察白書177-178P)
CCTVの活用
  • 警察では、犯罪予防及び犯人検挙のため、地方自治体と協議して防犯用CCTVの設置を推進(2009年末現在、全国で20,822台設置)。(2010年警察白書99P)
  • 警察署におけるCCTVによる取締り等の状況 
  • 警察署管内におけるCCTVの設置状況
  • 警察署からカメラの遠隔操作可能か
  • 防犯用、廃棄物投棄取締り用、学校周辺に設置されたCCTV等を警察が運用
その他
  • DNA型データベースは整備されていない。立法を現在検討中。    DNA型鑑定自体は捜査に活用。被疑者等からのサンプルの採取には裁判官の令状が必要
  • CCTVカメラは捜査に活用。公共空間へのカメラの設置に関する特段の規定はない。他の者が設置したカメラの映像は任意提出を受け活用。

刑事訴訟法等改正の動き

刑事訴訟法等改正案
  • 法務部が、2010年12月、グローバルスタンダードに符合する刑事司法制度の導入のための刑事訴訟法等改正案を公表。 ※2009年3月に、刑事法学者8名、実務家3名から成る「刑事法改正特別分科委員会」(法務部長官の諮問委員会)を設置し、改正案について検討。 
  • 背景に、近年、(被疑者取調べ時の弁護人立会いの法制化等)人権保護のための制度が拡充された反面、捜査の効率性確保等の方策がおろそかになり、汚職や組織犯罪等の構造的・知能的犯罪に適切に対処できていないとの現状認識。
  • 導入が検討されているもの
    • 司法協助者の訴追免除及び刑罰減免
      犯罪の究明に寄与した程度により、訴追を免除、又は刑を減免。
    • 重要参考人の出頭義務化
      死刑、無期、長期5年以上の犯罪の究明に重要な事実を知っている参考人が、2回以上、正当な理由なく出頭に応じない場合、令状により拘引。
    • 司法妨害罪
      「虚偽陳述罪」を新設し、捜査機関に対し、参考人が虚偽陳述をした場合に処罰できることとする等。
    • 刑事裁判への被害者参加制度
    • 映像録画物への独立した証拠能力の付与
台湾における捜査手法、 刑事司法制度等の概要

台湾

法域
台湾
人口
約2,300万人(2008年)
捜査機関
警察(約6万5,700人)、自治体警察・刑事警察局、法務部調査局、検察等
※捜査の主宰者は検察官

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台湾刑事司法の特色※数値は特記無ければ台湾は2009年、日本は2008年のもの

刑事訴訟の目的
刑事訴訟の目的は、もとより実体的真実の発見にあり、国家をして刑法権を正確に適用せしめ、それにより社会の秩序と安全を維持することにあるのであって、ただその手段は合法、清浄、公正であるべきで、もって人権を保障することになる。 
台湾最高法院判例(2003年台上6073等)
発生率
認知件数: 38万6,075件
人口10万人あたり1,676件(日本は1,424件)
殺人: 832件、強盗: 1,231件、強姦: 2,073件
捜査手法等
  • 通信傍受: 6,112件、2万5,934対象(2008年中、日本は11事件、22対象)
  • 各種情報の多くが、警察の情報端末で照会可能。(電話契約者や架電情報、戸籍、出入国等我が国では照会書の交付や差押えなどで入手)
  • 場合により無令状の緊急捜索が可能
  • DNAデータベース登録件数: 約5万4,000件(2010年)
  • 社会秩序維護法による拘留処分あり(3日以内)
    • 現行犯逮捕と緊急の場合のみ無令状逮捕可能
    • 検挙人員: 26万1,973人
    • 検挙件数: 31万1,648件(検挙率80.72%)
      殺人: 813件、強盗: 1,147件、強姦: 1,998件
起訴前勾留
検察の新規受理事件: 40万8,082件
うち、警察からの送致事件: 29万1,391件
身柄付で送致された人員: 11万9,106人(うち勾留請求1万1,663人、請求認容9,980人) 
  • 起訴前の勾留は最長4ヶ月間
    地方検察における事件受理から起訴等まで平均日数: 48.67日
  • 起訴前勾留中は、検察官の指揮・許可で取調べ可能(録音必要・弁護人の立会い可能)
裁判所による審査
  • 被疑者に犯罪嫌疑があれば、検察官は公訴提起しなければならないが、軽微な犯罪などについては不起訴とすることもできる。
    起訴: 19万9,374件 23万1,813人
  • 一件書類と証拠物を裁判所に送付(起訴状一本主義は採用されていない)
  • 裁判所は第一番期日前に検察官の示した犯罪の証明方法を審査し、被告人の犯罪成立を認定できないと認める場合には、検察官に対して補正を求める。
  • 補正がなされない場合は起訴棄却
  • 裁判は職業裁判官による独任制、または合議制審理 
  • 協商程序(比較的軽度の犯罪の司法取引)
  • 司法取引(短期3年以上の罪、その他の指定犯罪対象)
  • 証人保護
刑事第一審無罪率
判決無罪率: 約4%(有罪19万3,828人、無罪7,470人)

取調べの役割・比重

取調べに関する規定(出頭等)
  • 被疑者等を出頭させて取調べることができ、正当な理由なくこれに応じない場合は強制的に出頭させることが可能。(刑訴第71条、74条、75条)
  • 被疑者の取調べは、警察の取調べ室または適当な公務所で行う。(警察偵査犯罪手冊第134条) 
  • 取調べに先立って、人定を確認し、犯罪の嫌疑と罪名、黙秘権、弁護人選任権、自己に有利な証拠の調査を請求できることを告知する。(刑訴第94〜96条)
  • 取調べにあたっては、被疑者等に犯罪の嫌疑に関する弁明の機会を与え、弁明があればその顛末、有利な事実があればその証明方法を聴取しなければならない。(刑訴第100条の2)
取調べに関する規定(時間に関する規定)
  • 被疑者等を逮捕して出頭させた場合には、速やかに取調べを行わなければならない。(刑訴第93条)
  • 夜間の被疑者・被告人取調べは原則禁止(被疑者等の同意がある場合、緊急の場合等は例外)。(刑訴第100条の3) 
  • 護送時、弁護人や通訳人の到着を待つ間は取調べをしてはならない(この時間は勾留請求までの24時間の時間制限に算入されない)。(刑訴第93条の1)
  • 暴行、脅迫、利益誘導、偽罔、疲労尋問の禁止。(刑訴第158条の2)
  • 起訴前の勾留中も、検察官の許可を得て取調べができる。(検察官と警察機関の職務執行の連携に関する規則第7条以下)
取調べに関する規定(可視化等関連)
  • 被疑者、被告人の取調べは全過程を連続で録音。また、必要に応じて録画。(刑訴第100条の1)
  • 被疑者取調べには弁護人が立ち会い、意見を述べることができる。ただし、国家機密に障害がある場合や、証拠の隠滅や変造、共犯者との通謀、その他不当な行為によって捜査の秩序に影響がでる場合などには立会いを制限または禁止できる。(刑訴第245条)
  • 知的障害を持つ被疑者については、法定代理人や親族、指定の福祉関係者を補佐人として立ち会わせる。(警察偵査犯罪手冊第118条)
取調べに関する規定(調書・聴取内容)
  • 取調べを実施した際にはその場で供述調書を作成し、複数回に及ぶ取調べは調書にその回数を記載する。
  • 自白その他不利な供述、供述した有利な事実とその証明方法については調書内に明確に記載する。 
  • 調書は、元々の語気を保つように留意し、被取調者の真意に合致するよう作成する。
  • 取調べは問答方式で行い、調書作成の際には、人定、家庭状況、犯意、関係者、予備行為から犯罪発生に至るまでの時間における行動、犯罪場所に関する事項、犯罪の方法等を聴取して記録する。
  • 一度の取調べで正確、完全な供述を得ようとしてはならず、前後の供述の矛盾点を分析、追及して、真実の供述を求める。(以上、警察偵査犯罪手冊より)

取調べの録音・録画

録音・録画導入の背景
  • 1982年に起きたけん銃使用強盗事件において暴行を伴う取調べを原因とした冤罪事件が発生。同事件をきっかけとして弁護人の取調べ立会いが法制化されていたところ、起訴前の弁護人選任率が高くならず、捜査機関の対応にも問題が生じるなど、弁護人立会権が思ったほど機能していないことが判明。これら状況を受け、1998年刑事訴訟法改正により導入されたとの文献あり。
録音録画の対象
  • 被疑者・被告人の取調べが録音(録画)の対象。全過程を連続で記録する。(刑訴第100条の1,100条の2)
  • 録画は「社会の関心を引く重大事件」、「争いになると思料される事件」、「その他必要と認める場合」に実施すると規定。(「警察による被疑者取調べ録音録画要領」第6条)
※当初の被疑者が否認している段階で録音なしで説得、誘導を行って自白や自認を引き出し、調書を作成し始めてからテープ録音を開始しているのではないかとの指摘がある。
例外等
  • 全過程を連続で録音しなければならないが、急迫の事情があって、その旨を調書内で明らかにした場合はこの限りではない。(刑事訴訟法第100条の1第1項)
  • 取調べ中に録音テープの交換、被疑者等健康上の突発事由、夜間における取調べへの不同意その他の理由により、事実上取調べを中断しなければならないときには、口頭でその理由及び時間を明らかにし、再開時にも再開時間を口頭で明らかにする。(「警察による被疑者取調べ録音録画要領」第5条)
証拠能力との関係
  • 供述調書内の被告人供述と録音録画の内容が異なる場合、その内容が異なる部分については、急迫の事情があって全過程・連続の録音ができなかった旨が調書に明記されている場合を除き、証拠とすることができない。(刑訴100条の1第2項)
  • 但し、録音(録画)が連続でなされなかった場合、全過程が録音(録画)されなかった場合及び録音が全くされなかった場合の供述調書の証拠能力について、判例は人権保障と公共の利益の比例原則をもって判断することとしている(均衡理論)。
判例(99台上3717)
もし、被疑者の陳述が不正な方法によってではなく自由意思によるものであり、その供述を調査した結果事実と合致するならば、取調べ時に故意に全過程の録音録画をなさず、中断の状況があって、手続きに瑕疵がある場合でも、その供述証拠は当然に証拠無能力とは認めがたく、人権保障と公共の利益の均衡維持を斟酌してこれを決定すべきである。

取調べ室

取調べ室(警察)
取調べ室1 警察官席 被疑者席
取調べ室2 附室(監視・機器操作室) マイク カメラ
取調べ室(調査局)
調查官(調書作成者)席 マイク
附室(監視・機器操作室) カメラ
取調べ室 調査官(取調べ官)席 被疑者席
取調べ室(検察官)
検察官席 警察官席 被疑者席
  カメラ マイク

事実認定

事実認定に関連する主な規定 
  • 裁判官の事実認定は自由な心証に基づく。ただし、経験則や論理法則に反してはならない。(刑訴第155条) 
  • 挙証責任は検察官が負い、検察官は証明の方法も示さなければならない。(刑訴第161条)
  • 裁判所は、真実の発見のために職権で証拠を調査できるほか、公平・正義の維持、被告人の利益に重大な関連を有する事項は、職権でこれを調査しなければならない。(刑訴第163条)
  • 起訴状一本主義は採用されておらず、公判前に起訴の審査が行われる。(刑訴第264条、第161条第2項)
判例
  • 非供述証拠(物証、文書)は優勢証拠に属し、評価上の裁量において供述証拠に比較して強力である。(最高法院98台上5500)

事実認定(自白)

自白の証拠能力
  • 自白は、暴行、強迫、利益誘導、詐欺、疲労尋問、違法勾留その他不正な方法により得られたものでなく、かつ事実と合致する場合には証拠とすることができる。(刑訴第156条第1項)
  • 自白を唯一の証拠として被告人あるいは共犯者を有罪にはできない。(刑訴第156条第2項)
  • 被告人が不正な方法により自白させられたものであると陳述した場合には、その他の事実証明よりも先に調査を行わなければならず、当該自白が検察官により提出されたものであれば、裁判所は検察官に対し、その任意性を立証する方法を示すよう命じる。(刑訴第156条第3項)

事実認定(黙秘権)

黙秘権に関する規定・判例
  • 尋問の際には黙秘権を告知する必要があり、この告知を経ないで得られた供述は原則として証拠能力が認められない。(刑訴第158条の2)
  • 被告人が自白をせず、また証拠もない場合、被告人が供述を拒絶しあるいは黙秘を続けることのみをもってその罪を推定してはならない。(刑訴第156条第4項)
  • 被告人の黙秘権の行使あるいは供述拒否をもって、黙示の自白とみなしあるいは被告人の不利益を推定することは認められない。(判例93台非70) 
  • 被告人が否認をし、あるいは抗弁の内容が裁判所が職権により認定した事実と相反するところがあることによって、マイナスの評価とし、その犯罪後の態度が不良であって量刑を加重する基準の一つとすることはできない。(判例97台上6725)

取調べ以外の捜査手法等

協商程序(刑訟第455条の2〜455条の11)
  • 死刑、無期もしくは短期3年以上の有期懲役の罪等以外の犯罪では、被告人が罪を認めて、「科刑の範囲または執行猶予判決を受け入れる」、「被害者に謝罪する」、「被害者に相当額の賠償金を払う」、「公益団体等に寄付をする」等の項目で検察官と合意した場合には、当事者合意の判決を裁判官に請求できる。 
  • 被害者がある犯罪では、被害者の同意が必要。
司法取引(証人保護法第14条)
  • 短期3年以上の懲役の罪、その他法律に規定する罪について、被疑者等が当該捜中の事件に重要な関係を有する証拠や正犯・共犯の犯罪に関する証拠について供述し、検察官をしてその正犯等の訴追ができるようにした場合には、当該被疑者等の刑を軽減、あるいは免除できる。
  • 先に検察官の同意があった場合に限る。
短期3年以上の罪: 殺人、強盗、違法薬物の販売目的所持等。
窃盗は5年以下、ヘロインの単純譲渡は1年以上で該当しない。
法律に規定の罪: 投票贈収賄、あへん販売、詐欺、児童買春、資金洗浄等
各種情報の把握
台湾警察は、その職権行使の目的の範囲内で、必要なときに、個人の関係資料を伝達できるほか、その他の機関も警察の請求に基づいて、その保存する個人関係資料を伝達できる。(警察職権行使法第16条)
  • 実務上は警察施設内に設置された情報端末が各種機関と接続されており、オンラインで戸籍・住民登録情報、旅券・出入国情報、電話の契約名義人、架電記録・携帯電話位置情報、銀行口座の開設者情報等の照会が可能(我が国では、戸籍・住民登録、旅券・出入国、電話の契約名義人、銀行口座の開設者情報は捜査関係亭項照会、架電記録は差押え、携帯電話の位置情報は検証で入手している)。
  • 台湾では各人に統一番号が付されており、同番号による照会が可能。
通信監視(通信傍受)(通信保障及び監視法)
通信:
電信設備を用いて文字、映像、音声等を有線・無線で伝達するもののほか、郵便、言論及び会話も含む(私人の住居内に監視機器を設置することはできない)。
要件:
①短期3年以上の罪その他特定の犯罪の容疑があって、②国家安全への危害または社会秩序への重大な影響があり、③通信の内容が事件と関係すると信じる相当な理由があり、④他の方法によっては証拠の収集や捜査が不可能か困難である場合に、通信の監視を実施できる。
令状:
原則として、検察官が裁判所に書面で請求する。
期間:
30日。延長が可能。
その他:
電気通信事業者等は、通信監視に協力する義務を負う。執行に伴う費用は執行機関、システムの設置・維持に関する費用は設置機関の負担となる。事業者のシステムは監視に適した機能を具備しなければならない。
※実際は捜査機関が傍受センターを設立し、回線を同センターまで敷設して傍受を実施している。
2008年通信監視実施件数: 6,112事件 2万5,934対象電話(日本は11事件 22対象電話)
行政傍受(通信保障及び監視法)
要件:
国家安全への危害の防止のため、外国勢力、海外敵対勢力からの情報収集の必要がある場合に、通信の監視を実施できる。
令状:
国家安全局長。ただし、監視対象者が台湾籍を有する場合には、高等裁判所裁判官の同意が必要。
有効期間:
1年間。
その他:
得られた資料は、国家安全のための情報としてのみ使用が可能。ただし、一般の通信監視の要件にも合致する場合には、得られた資料を警察機関に伝達することは可能。
  2008年高等裁判所同意件数: 37件
証人保護(証人保護法)
  • 検察官(公判中は裁判所)は、証人または証人の密接利害関係人が、検察官の面前又は裁判所における証言により危害を受けるおそれがある場合には、証人保護措置を取ることができる。
  • 緊急の場合及び、警察機関が「流氓(りゅうまん)」(ごろつき、チンピラ)の事件で必要があると認める場合には、先に保護措置を取ることもできる。
  • 情報提供者、告発人、告訴人又は被害者にもこの保護は準用される。 
  • 具体的には、「身分の秘匿」、「警察官の派遣」、「接近制限」、「就職、転居等支援」などの保護措置を取りうる。
報奨金(組織犯罪防制条例、違法薬物防制条例)
組織犯罪に関して発覚前に情報を提供し、それにより事件を検挙し同事件の有罪判決を得た場合や、違法薬物の危害防止に成果を上げた場合の情報提供者には、報奨金が支払われること及びその金額が法定されている。
例: 犯罪組織の首謀者を検挙した場合には100万元(約265万円)
例: 覚せい剤100kg以上200kg未満を押収した場合には60万元(約150万円)
DNA型鑑定・データベース(DNAサンプル採取条例)
  • 司法鑑定の提供と犯罪捜査能力の向上、行方不明者調査、親子血縁関係の確認、性犯罪予防を目的として、DNAサンプル採取条例が制定されている。
  • 重大暴力犯罪、性犯罪の被疑者・被告人からはサンプルの強制採取が可能。
  • 親子鑑定を希望する者は自費での鑑定を要請できる。
  • データベースへの登録は、被疑者・被告人のみ。
  • サンプルの保管は少なくとも10年、記録の保管は対象者の死亡後10年。ただし、対象者が不起訴又は無罪判決を受けた場合には削除申請が可能。
登録件数(2010年3月時点): 約5万4,000件(日本は10万7,584件。2010年9月)
その他
  • 警察による拘留処分(社会秩序維護法)
    公共秩序の妨害行為(殺傷力のある機器等の所持、集会解散命令に従わなかった場合、警察官の法に基づく捜査・調査に対し、人定事項を回答しなかった場合等)に対して、警察機関の処分として3日以下の拘留を科すことができる。
  • CCTVカメラ(警察職権行使法)
      警察は、犯罪多発地域の公共の場所や公衆が出入りする場所等に監視機器を設置し、あるいは既に存在する機器を利用して情報を収集することができる。    収集した資料の保管期限は原則1年。
  • 潜入・買受け捜査(判例: 2003年台上4558)
    潜入捜査は実施していない。買受け捜査は判例上認められている。
  • 性犯罪者登録等(性犯罪防止治療法)
    性犯罪の加害者は、刑の執行後7年間は定期的に警察に出頭し、身分、就学、就業、車両等の情報を警察に登録。怠った場合は1年以下の有期懲役。学校施設等は職員の採用に際し、登録の有無を警察に照会できる。電子機器による監視制度有り。
  • 捜査官の取調に対する偽証罪(刑法第168条)
    検察官取調べで参考人が重要事項について偽証した場合には偽証罪の適用有り。
香港における捜査手法、 刑事司法制度等の概要

香港

法域
香港
人口
約700万人
主要捜査機関
香港警察
警察官
約2万8,000人

※検察官は訴追を担当し、捜査は行わない(数値は2009年のもの)
詳しい資料[.pdf]のダウンロードはこちらから

警察と検察の刑事司法に関する権限 

香港警察(警隊条例)
  • 公共の安全維持、犯罪の予防と捜査、生命・財産の損害防止、交通管制等の幅広い任務を有する。
  • 告発(Exhibiting Information)と訴追(Conducting Prosecutions)の職務も有する。
検察(律政司)(香港基本法、刑事訴訟程序条例(刑訴条例))
  • 法務省にあたる「律政司(DOJ/Department of Justice)」が訴追を管理することとされており、その長(律政司長・Secretary for Justice)は、被告人の刑事手続の進行等について判断し、実施する(institution of proceeding)。
  • 律政司に設置されている「検控科(Prosecutions Division)」がこれら刑事手続に関する権限を執行し、同科の検察官による訴追がなされている。
実務
警察が裁判所(裁判法院)に対し被疑者を告発するが、その前後に律政司が警察からの連絡を受けて助言を行う。告発後には律政司が訴追の継続を判断し、各裁判所に勤務する律政司所属の検察官が訴訟を担当する。検察官自身は捜査に参加しない。

香港刑事司法の特色※数値は特記無ければ香港は2009年、日本は2008年のもの

犯罪の発生
発生率認知件数: 7万7,630件(日本の約4%)
人口10万人あたり100件(日本の約4分の3)
    ※殺人51件、強盗870件、強姦136件(日本は殺人1,297件、強盗4,278件、強姦1,582件)
捜査手法
通信傍受令状発付: 1,693件(新規801件、延長918件)(日本は11事件、22通/2008年)
会話傍受等の承認: 198件
 DNAデータベース登録件数(遺留DNA除く): 3万0,909件(2010年7月現在)(日本は10万7,584件、2010年9月)
逮捕
逮捕警察留證無令状逮捕が通常。任意捜査はほとんどない。
  ※警隊条例第50条、刑訴条例第101条
  検挙件数: 3万5,774件(検挙率約46%)
  ※殺人48件、強盗263件、強姦121件
  検挙人員: 4万0,725人
取調べ
  • 逮捕から起訴(告発)まで拘束可能時間は48時間。起訴後の取調べは原則不可。
  • 取調べは警察の内規により録音録画を実施。弁護人が取調べに立会い可能。
  • 弁護人が取調べに立会い可能
起訴(告発)
訴追の基準(検察官規範)
  • 証拠の十分性=有罪の合理的な見込み
  • 公益性=処罰の必要性、被疑者年齢、被疑者の反省等
裁判所の区分(犯罪の種別で管轄が異なる)
原訴法廷(Court of First Instance)
公訴罪(最も重大な犯罪。殺人、強姦等。コモンロー上の犯罪と、成文法で公訴罪に指定された犯罪)の公判。陪審制が採用されている。裁判法院からの上訴も受ける。
区域法院(District Court)
7年までの拘禁刑にあたる公訴罪を職業裁判官が審理。
裁判法院(Magistrate Court)
簡易公判可能公訴罪(法律に簡易公判手続によることが可能である旨規定されている公訴罪)と簡易犯罪(成文法で公訴罪である旨指定がない犯罪)を職業裁判官が審理。全ての事件が、最初は裁判法院に告発され、その後、各裁判所へ移送される。
答手続有罪答弁制度
  • 有罪答弁を行った者は、その意向が示された段階と反省や警察への協力状況で量刑を考慮。 ※判例が基準
  • 有罪答弁の場合は、証拠調べは行われず量刑手続きに入る。
証言取得に活用できる制度
  • 司法取引 ※裁判官条例及び判例
  • 証言拒否による犯人隠避罪 ※刑訴条例第10条
  • 証人保護 ※証人保護条例
有罪無罪刑事第一審有罪率(政司統計)
  • 裁判法院:73.2% 
  • 区域法院:92.6%
  • 原訴法廷:94.8%(日本は99.8%)

取調べ

取調べとは
警察官は、犯罪が行われたかどうか、誰によって犯されたかを判明させるために、容疑者であるか否かを問わず、有用な情報を得ることができると思料される何人に対しても質問を行うことができる。
(被疑者取調べと供述録取に関する規則(取調べ規則)第1条)
取調べに関する主要な規定(取調べ規則より)
  • 取調べ場所、時間に関する明文規定はない。ただし、録音録画を行わなければならない場合は、実質的に取調べ室でなければ取調べはできない。 
  • 質問を受ける者が快適にいられるように、また必要に応じて食(refreshment)を提供するよう手配する。 
  • 告発後または告発を行うことを被疑者に通知した後は、原則として当該犯罪の取調べを行うことはできないため、勾留時の取調べは48時間以内。
  • 供述が証拠能力を認められるための基本条件は任意性であり、供述が脅迫や利益誘導によってなされたものではないことが原則である。
  • 供述拒否権と、供述が証拠として使用される可能性を取調べに先立って警告しなければならない。

取調べの録音・録画

録音・録画導入の背景
過去に警察官による暴力が裁判で主張され、自白の任意性の争いに公判で多大な時間を費やすことがあったことが導入の契機であるが、法制化はされておらず、部内の規則により運用されている。 1986年に部内で検討を開始し、試行を経て、1998年に全ての警察署に録音録画装置付きの取調べが導入されることとなった。
取調べの録音・録画の基準
  • 事件が原訴法廷または区域法院で審理されるとみられる場合。 
  • 裁判法院で審理されるとみられる事件のうち、「複雑なもの」、「録音録画が公共の利益に資する場合」、「被疑者が要望した場合」。
  • 律政司から録音録画を行うように助言がある場合。
以上のうち一つ以上を満たす場合の被疑者の取調べについて行われる。
    ※ ただし、録音録画を行うか否かの決定権は警察にあり、捜査の責任を有する幹部職員が判断して録音録画しないこともありうる。
証拠能力との関係
  • 基準に違反したことにより直接に供述の証拠能力が否定されることはなく、自発的に供述を行ったことが立証できれば、当該供述の証拠能力は認められる。

取調べ技術の伝承

  • 警察学校での各種教養課程の中で、取調べに関する訓練(Interview Development Training)を実施。
  • 犯罪捜査に従事したい者は標準犯罪捜査課程(Standard Criminal Investigation Course)を受講する必要があり、香港警察の捜査官は全員このコースを卒業している。
  • 9週間のコースを年4回実施し、一回で120人から130人位の警察官を教養する。
  • 取調べの技術については、英国PEACEモデルを採用しており、香港警察では2名の者が同国で取調べのトレーニングを受けて取調べ指導専門官の資格を有している。

事実認定

事実認定に関連する主な制度
  • 有罪答弁の場合には原則として審理は行われず有罪が確定する。
  • 原訴法廷の審理は、7名の陪審員と1名の職業裁判官による陪審制。全会一致が原則であるが、5人以上の多数決による評決も可能。
  • 証拠の証拠能力に争いがある場合には、陪審審理が始まる以前に解決しておくべき事項とされ、予備尋問手続(Voir Dire)において、証人適格や、証拠能力の審査のための聴聞手続が行われる。
  • 公判は、当事者主義的に進行され、裁判官は証拠調べに干渉しない程度で質問を行うことが通常。
  • 陪審は、有罪・無罪のみを評決(Verdict)し、刑の宣告(sentence)には関与しない。
  • 陪審評決には理由が付されない。陪審討議の公開や上訴にあたって陪審討議の内容を検討することは原則として認められない。

事実認定(自白等)

自白の証拠能力
  • 自白の証拠能力に争いがある場合は、予備尋問手続(Voir Dire)において、警察官・被告人証言の精査や対質が行われ、取調べ規則に従っているか、その他不公正、強圧、誘引等がなされなかったかが審査される。 
  • 自白内容が事実でも、任意性の判断には関連を有しない。
黙秘
  • 告発を受ける者は何人も自身に関する証言や自白を強要されない。(香港権利章典条例)
  • 捜査官は取調べ開始時に供述拒否権を告げなければならない。

取調べ以外の捜査手法等

証拠取引
  • 被疑者・被告人が、完全かつ真実の証拠を提供することと引き換えに、律政司の同意のもと裁判所が訴追からの免責を与えるか、検察官が被告人の捜査への全面協力について言及する。(赦免は裁判官条例115条。協力への言及は判例に基づく)
  • 赦免は、対象が主犯者ではなく、かつ訴追の必要性が低い場合に運用されている。
  • 協力への言及は、主犯者など免責を与えることが適当でない場合に用いられることが多く、最大で3分の2まで減刑される可能性あり。
起訴取引
  • いくつの罪で被告人を訴追するか(例: 累犯窃盗など)、あるいはいかなる罪で訴追するかを被告人側が検察官と交渉する。
  • 訴追罪数の違いは被告人側に大きな利益はなく、罪名変更の交渉も、結局は審理により有罪・無罪も決定するのであまり利用されていない。(特段の成文規定なし)
法令遵守宣誓(Binding Over)
  • 被告人にある一定期間法令を遵守することを宣誓させて、裁判所が判決を出す代わりに遵守の命令を出す制度。違反には6か月の拘禁刑を科すことができる。
  • コモンロー上の制度であるが、執行方法が一部成文法化。(裁判官条例61条)
量刑に関する判例
  • 過去の判例により、有罪答弁を行った場合などには量刑が軽減されることが示されている。
    例として、
    • 事実を認めるのみ = 10%軽減
    • 早い段階で有罪答弁を行って共犯者に関する証拠を提出 = 20%軽減
    • 明白な反省とともに警察への協力を示す = 30%軽減
    など
答弁に関しては自発的に行われる必要があり、訴追側から取引を持ちかけることはない。
通信傍受(通信傍受及び監視に関する条例) 
  • 「重大犯罪の予防または捜査のため」または「公共の安全の保護のため」に、特定の事件あるいは脅威について、何者かが関与していると認める合理的な理由がある場合に認められる。
  • 重大犯罪とは、7年以上の拘禁刑にあたる犯罪。
  • その他、必要性、侵害の程度とのバランス、その他の方法がないことが要求される。
  • 令状発付権者はパネルジャッジと呼ばれる裁判官。令状は最大3ヶ月有効で、申請で延長可能。
  • 対象者への通知は不要。
運用状況(2008年)(通信傍受・監視監督官年報)
新規令状請求件数: 801件(うち却下13件) 平均許可期間: 29日間
※1件の令状で、複数通信手段を指定可能
更新請求件数: 918件(うち却下13件) 平均延長期間: 30日間
適用が多い対象犯罪: 密輸出、薬物売買、三合会運営、贈収賄、窃盗、強盗等
監視(会話傍受含む)(通信傍受及び監視に関する条例)
  • 「特定の捜査において」「機器を使用して」「対象に気付かれることなく」「個人情報を入手する」捜査であって、その場での対応(被疑者検挙等)を目的としないもの。
  • 「住居への侵入を伴わない場合」「会話の対象者が記録機器を利用して会話等を記録する場合」「公共の場でも合理的なプライバシー保護の期待を侵害する場合」が第二類監視、それ以外が第一類監視 
  • 第一類監視はパネルジャッジの許可が必要。要件は通信傍受と同じだが、対象犯罪が3年以上の拘禁刑または100万香港ドル以上の罰金にあたる罪となる。
  • 第二類監視は捜査機関の幹部職員の承認により可能。

運用状況(2008年)(通信傍受・監視監督官年報)

第一類監視
新規申請件数: 83件 平均許可期間: 5日間
更新申請件数: 15件 平均許可期間: 8日間
第二類監視
新規申請件数: 84件 平均許可期間: 6日間
更新申請件数: 16件 平均許可期間: 6日間
適用が多い対象犯罪: 薬物売買、脅迫、贈収賄、窃盗等
潜入捜査
  • 律政司の有する訴追の継続・停止判断に関する権限を活用して実施。特段成文規定はない。
  • 犯罪組織の一員を協力者として運用する場合の免責に関しては、「捜査対象が香港の秩序と安全に脅威であり」「通常の捜査では効果的ではないことが判明している」場合に免責を与えることができるとしたうえで、情報提供者の共犯者としての証拠が必要不可欠であり、その他の方法での証拠入手が困難であることや、情報提供者の非難の程度が主犯を超えないことなどを判断項目として挙げている。(訴追に関する方針と実務~検察官規範~)
DNAデータベース(警隊条例第59A条以下)
  • サンプル採取対象者は「重大な逮捕可能犯罪の被疑者及び有罪確定者」であり、同意なしで採取が可能。同意しない場合は合理的かつ必要な強制力を用いることができる。
  • 対象者以外でも任意提出を受けることは可能。
  • 重大な逮捕可能犯罪とは、7年以上の拘禁刑に当たる罪と、警隊条例別表の罪で、脅迫、恐喝等も含まれる。
  • 被疑者については無罪判決の際に登録を削除(有罪確定者のデータは永久に保存される。)
登録件数: 有罪確定者等 3万0,909件、遺留DNA 5,467件
運用開始(2001年)からの実績
対象者DNAと遺留DNAの合致 1,300件
遺留DNA同士の合致 398件
証人保護(証人保護法)
  • ある犯罪について証拠を提供しまたは提供することに同意した者、犯罪に関連して供述やその他の捜査支援を提供した者、その他の理由により証人保護プログラムの下での保護を要請する者、これらの関係者として保護を要請する者が対象。
  • 保護に必要な権限は香港警察長官等が有し、これらの者から指定された者が認可当局として保護プログラムの実施を決定する。 
  • 実施の要件は「認可当局の決定」「証人の同意」「保護の詳細を定めた覚書への署名」
  • 保護プログラム下では、「証人への新たな身分付与」「証人の詳細暴露の処罰」「法廷での安全確保」「セーフハウスの提供」「身辺警護」などが実施可能。
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