わが会員である弁護士が当会公式Tシャツ(「私は取調べを拒否します」Tシャツ)を依頼人に差し入れたところ警察署がこれを本人に交付することを拒否したという事案が発生しました。報道によると警察はこのTシャツを「危険物」であり「留置施設の規律及び秩序を害するおそれがある」と判断したということです。このTシャツは上質のコットン製で毒性や発がん物質などを全く含んでいませんので、人身に危険をもたらすなどということはありえません。また、Tシャツのメッセージは自身が法律上の権利を行使することを明記しているだけであり、暴動や脱獄を呼びかけるようなものではありませんから、これを着用したからと言って留置施設の規律や秩序が害されるということも考えられません。今回の警察の処置は、このTシャツを着用する被疑者の存在によって、取調べを拒否する被疑者が現れること阻止するためのものというほかありません。
犯罪の嫌疑を受けた個人はその瞬間から自らの防御を開始する必要があります。そのために防御の専門家である弁護士を雇い、その助言に従って行動する必要があります。犯罪の嫌疑を受けている個人とりわけ身柄拘束を受けている人は、さまざまな圧力を受け、苦境を強いられているために、弁護人の助言を単独で実行することが困難な場合があります。たとえば、弁護人が黙秘権や取調べ拒否権を行使するようにアドバイスしても、留置担当者や取調官は取調べに応じて供述するのが得策であるなどと言って弁護人の助言を無効化しようとします。こうした圧力を撥ね退けて、確実に黙秘権や取調べ拒否権を実行できるようにするために当会は「私は取調べを拒否します」とプリントしたTシャツを会員弁護士に配布して、それぞれの依頼者に房内でそれを着用することを助言するように勧めています。
今回の警察署の措置は、弁護人の正当な弁護活動を妨害するものにほかなりません。また、被疑者が黙秘権行使の意思表示をすることを事実上阻止するものです。この意味でTシャツ差入拒否という措置は日本国憲法がすべての個人に保障している黙秘権及び弁護権を侵害するものです。
メッセージ性をもったTシャツを着用することは現代社会においてありふれた表現手段です。犯罪の嫌疑を受け逮捕勾留されているからと言って、表現の自由を失ったり、制約を受けたりする理由はありません。Tシャツを見た同房者が「自分も取調べを拒否しよう」と考えたとしても、それは自らの権利に目覚めただけのことであり、何の問題もありません。選挙期間中に「投票しよう」というTシャツを着ている人を見て、「自分も投票しよう」を思う人が続出したとして何の問題もないでしょう。今回の警察署の措置は合理的な理由なしに個人の表現の自由を不当に制限するものに他なりません。
われわれRAISは今回の措置に対して厳重に抗議するとともに、国家賠償訴訟をはじめとする法的措置を早急に採る所存です。
2024年12月29日
取調べ拒否権を実現する会 (RAIS)